2006-11-09

赤い月

幼な心に、忘れられない光景、というのがいくつかある。

多分3・4歳ぐらいだろう。札幌に住んでいた頃だ。
家々の軒の向こうに、真っ赤に染まって大きく丸い月が浮かんでいた。
ぐらぐらと煮えたぎるようなその赤さと、下のほうが霞にぼやけたその佇まいが薄ら気味悪く、私はその月目掛けて駆け出していた。
何処まで走っても、月は近付いてはこなかった。

同じ頃だ。多分もう少し前だろう。
住んでいた公営住宅の向かいに、背丈より遥かに高い草が生い茂っている空き地があった。
下の階に住んでいた、一つか二つぐらい年下の女の子と、そこを探検した。
砂利道がついていた、ような気がする。くねくねとうねり曲がり、枝分かれを左へ左へと進んでいった。
一番奥に、いろんな家具が置いてあった。
横倒しになった棚の上に、ガスレンジが置いてあった。
家では決して触らせてもらえないそれが、いたく気に入った。
がちがちと、魚焼きグリルのつまみを何度も回していた。
しかし、その後二度とそこで遊んだ記憶はないのである。

姉の初めての運動会だった。学年で3つ上の姉だから、これは確実に3歳の時だろう。
小学校には、大きな木がたくさん生えていた。それが珍しかった。
森の木を、スキーのスラロームのように駆け回っていた。
赤くて丸いきのこが生えていた。多分きのこもその時初めて見たのだ。
つん、と触ると、胞子が物凄い勢いで飛び出した。煙幕のようだった。
恐ろしくなって泣き喚きながら逃げ出した。
爆弾きのこである。今思えばなんということはないのに、その時の手に握った汗までありありと思い出せるのだ。

普段は意識していなくても、折に触れて思い出す。
特に夜寝る前。急にそんなことを考え始めて、感覚と記憶と思考の間でゆらゆらしている時がある。
そのほうがよく眠れる日もあれば、逆に全く眠れない日もある。
 
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