2007-07-18

ムカシ、ムカシノ オハナシヨ

昔むかし。あるところに、おじいさんがいました。
 
おじいさんには、おかしなクセがありました。
 
笑いだすと、ひゃっくりが止まらなくなるのです。
 
お酒がすきなおじいさんは、いつものお仲間と今日も大さわぎです。
 
笑いじょうごのおじいさん。ひと口のんで、
 
誰かがおかしなことを言うたんびに
 
「うははははぁっ ヒィック」
 
ずいぶんえらそうに笑うくせに、そのあとすぐにヒィックですから、
 
まわりのおじいさんたちもおかしくてたまりません。
 
おへやの中は、笑い声と、たまに聞こえるおじいさんの
 
「ヒィック」と。その後のまた大きな笑い声と。
 
10軒先まで聞こえるようなにぎやかな大さわぎが、
 
夜おそくまで続きました。
 
 
 
いつものように大さわぎのある日。村のやどやに、
 
とおい旅のおさむらいが泊まっていました。
 
急がない旅ですっかりたいくつしているところに、
 
わっはは、ヒィック。なにやら楽しげな声が聞こえます。
 
「おかみさん。ずいぶんにぎやかなおたくがあるようですね。」
 
「ああ、あれですか。ひゃっくりじいさんのうちのさわぎです。
 
 まいばんあれですよ。すみませんね、眠れないでしょう?」
 
「いえいえ、私も酒は大好きなもんで。
 
 あのさわぎを聞いちゃだまっていられません。
 
 ちょっと案内してもらえませんかね?」
 
おかみさんに連れられて、がらがらとおじいさんのおへやをあけたとたんに、
 
「ヒィック!うははははははっ」
 
の大笑い。おさむらいさんはびっくりして、でもちょっとおかしくなって
 
「こんばんは。ちょっとまぜてもらえませんか。」
 
「うっくっくっくっ ああ、どなたかぞんじませんが。どうぞどうぞ。」
 
「いまね、このじじいがね、ひゃっくり、あっはっはっはっ」
 
おじいさんたちは、笑いをこらえきれません。
 
おかげでおさむらいには、さっぱり何の話だかわかりません。
 
でもとりあえず、と腰を下ろしました。
 
「まあ、まあおさむらいさん。まずはいっぱい。」
 
そう言ってつがれたお酒を、おさむらいがくいっとひと口。
 
とたんに鼻がぷっと赤くなりました。
 
おさむらいには、おさけを呑むと鼻が赤くなるクセがあったのです。
 
でも、おさむらいはそれに気付いていませんでした。
 
「やあ、おさむらい。ずいぶんりっぱなお鼻をしてらっしゃる。」
 
いちばんはじっこにいた、頭がはげたおじいさんが言いました。
 
「いやいや、お前の真っ赤なはげ頭のほうがりっぱじゃて。」
 
「なに、おまえのその袷からはみ出た真っ赤な腹のほうがりっぱじゃて。」
 
「いやいや、わしの真っ赤なしりがいちばん。」
 
しりをだすおじいさんまでいたものですから、たまりません。
 
「うははははははっ、ヒィック」
 
「やれ、また出なすった!あははははははは」
 
おじいさんたちは大喜びで、どんどん床を叩いて大笑いです。
 
でも、おさむらいにだけは何がおもしろいかさっぱりわかりません。
 
(俺の鼻、何がりっぱなんだろう?)
 
真っ赤なお鼻をさすりながら、つまらなそうな顔をしています。
 
ひとりつまらなそうなおさむらい。
 
おじいさんたちは、しきりとおさむらいにお酒をすすめます。
 
そのたんびに、おさむらいのお鼻はプップップッ。
 
どんどん真っ赤になります。
 
おじいさんたちはおかしくてたまりません。しかも笑ったあとには
 
「うははははぁっ ヒィック」
 
ですから、そこでまたまた大笑い。
 
おさむらいには、ますますわけがわかりません。
 
ちっとも楽しくないのです。
 
(俺の顔に何かついているのかな。どれ、ここはひとつ)
 
「ちょっと、手洗いを」
 
「あ、ああ庭のすみっこですよ。ヒィック」
 
「それまた出た!あはははははははは」
 
どうやらひゃっくりが面白いらしい、というのが、
 
ようやくおさむらいにもわかりました。
 
でも、一度立ったものを座りなおすのもへんなので、
 
そのままお手洗いに立ちました。
 
用を足して、手おけの水をふいと見ると。
 
自分の顔が映っています。
 
(やあ、鼻が真っ赤だ!あのじじいども、これを笑ってやがったな!)
 
怒りに怒ったおさむらい、部屋のふすまをがらがらびしゃん!
 
ちょっとびっくりしてしずかになったおじいさんたち。
 
ちょっとあいて、また大笑いです。
 
「やあ、とうとう顔中真っ赤になりなすった!あっはっはっ」
 
「うははははぁっ ヒィック」
 
「それ出た!あははははははははははははは」
 
今日いちばんの大笑い。
 
顔中真っ赤になって怒っていたおさむらいも、
 
あんまり笑うので怒る気がなくなってしまいました。
 
 
 
そのまましょんぼり宿屋に帰り、寝る前にもう一度顔を見ると。
 
もうすっかりいつもの顔に戻っていました。
 
ふう。大きなため息ひとつついて、
 
おさむらいはあんまり眠れませんでしたとさ。
 
おしまい。

4 comments:

きたざき said...

おもしろいです。
本当に文句なしに面白いです。

僕ならたぶんお侍に刀を抜かせてしまうと思います。
お侍さんがいっぱいいっぱいお侍になるからです。
で、一緒に飲んでる仲間の中で本当のバカになってしまった自分を知る。
というのが、たぶん書きすぎというところなんだと思います。
お話がそうなってしまうと
三治さんの書いた本当のお侍の孤独が出てきませんものね。

三治 said...

>きたざきさん

あ、いや、どうも。
人に感化されやすい性質なもので。きたざきさんに刺激されてちょっと書いてみました。
書いた本人、あんまり面白いと思ってません。
もうちょっと面白く書ける気がしています。
刀を抜かせるつもりでおさむらいにしたんですが、刀を抜くとおじいさん達は笑えなくなってしまう気がしてやめました。
あんまり、おさむらいにした意味なくなっちゃいました。
あんまり自作を説明するのは、ボケ殺しみたいな感じになるので、やめときます。
また今度、何か思いついたらこんなようなのも書いてみます。

Anonymous said...

「メルヘン」管理人です。
内容的には、問題ないのですが、
お詫びとお願いで「ウィルスが配布された模様」と言う記事を読みました。正直で良いと思いますが、管理人の責任上、ブログを移すなどし、安全な状態になるまで管理人権限で、こちらのサイトを非表示にさせていただきます。
太宰治のお伽草子は、いいですね。
悪しからず。「メルヘン」管理人

三治 said...

>uttiさん

えっと、説明不足だったでしょうか。
ウィルスが配布されたのはこのブログではなく、ここからも一時リンクを張っていた携帯用無料ホームページ作成サービス「魔法のiらんど」で、私が管理しているページです。
「トロイの木馬」は、広義ではウィルスの一種ですが、2次感染は致しませんのでこのブログの表示だけでは問題はありません。
また、現在はサービス側から正式にウィルス情報の流れた後であり、またこのブログからのリンクも当該記事内のもの以外は抹消しております。
まとめると、ウィルス撒き散らす危険性のある状態のページをそのまんま放置するようなことは、してませんよ。してたらあんな記事は書けません。

まあ、たかがトラックバックですから。たまに毛色の違う記事を書いたから送ってみたわけで。
お気に召さなければどうぞご自由に。

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