2007-05-15

有朋自遠方来

昼休み。いつものようにコンビニのレジに並んでいると、鳴らないことで定評がある私の携帯が、突然震えだした。
携帯を持って既に7年になるが、iモード誕生後に携帯を持った私にとっての携帯というのは電話機である前に「簡易型web・emailブラウザ」である。わかりやすく言うと、私は電話に興味がないのだ。
用件はほぼ全て、パケホーダイのおかげで無料のメールで済ます。電話というのは、なかなか会えない遠方の友人と事前に「これこれ、これからかけまするぞ」「わかり申した」とメールでやりとりしてから話すものだ、と思っているフシが、私にはある。
だから、突然電話がかかってくると、正直うっとうしい。この無礼者が、と反射的に思ってしまっている自分がいるのだ。たいした用件でなさそうなら、出ない。無視する。要る話なら後でメールが来ると思っている。
と、いう常識を持つのは私ぐらいで、世間一般で言えばいきなりかけるのが普通だから、勢い私の知り合いは電話をかけてこなくなる。だから、鳴らないのである。
 
その携帯が、胸ポケットで震えだした。うぜえなあ、と思い、その上レジの順番が次で後ろにも並んでいるものだから、取りたくもないし取るわけにもいかない。
私の電話に出ないぶりに慣れている人であれば、ここで諦める。だが、今日は20回も30回も震え続けていた。
レジが終わってもまだしつこくブルブルいっている。流石に確認すると、少なくとも5年は互いに連絡がなかった高校時代の友人の名前が、そこにあった。
 
人付き合いは損にならない、といくら人に言われても、干渉されるのが面倒で仕方ない私には世間で言うような「何年来の友人付き合い」というのが、一切無い。
会社の付き合い以外で外で酒を飲むことも無いし、何かの相談を持ちかけられることも無いし、一緒に遊びに行くことも無い。ひとりのほうが、何かと楽なのだ。
そういう私の性質を理解できない人間に「友達だろ!?な、友達だろ!?」と言われても、「どこがだよ」と思ってしまうのである。
だから、人付き合いがいいとよく言われるタイプに私の友人はいないし、一番友人として考えやすい人物との関係ほど、疎遠になりがちになる。結婚してからは向こうもより遠慮するので、よりそうした傾向が強くなった。
携帯に表示された名前は、そんな私にとって典型的な友人の一人だった。
 
第一声。私と彼の、5年ぶりに交わした第一声。
 

私(電話を取って、いきなり)「なした?(どうした、の北海道方言)」
彼「あ、あの(本名)さんの携帯でしょうか」
私「そうだって。だからなした?」
彼「(彼名)ですが。」
私「わかってるって。だからなした?」
彼「いやあどうもお久しぶりです。」
私「あー久しぶり。で、なした?」

 
全く噛み合わない。
私よりは社会的常識があり、交友関係もそれなりに幅広い彼には、やはり世間的常識となっている「友人関係=時間をかけて築き上げていくもの」という意識があるのだろう。5年間互いに音信不通だったことに、若干の後ろめたさに似たようなものがあったようだ。
お互い30を越え、社会的責任も増してきている現在の状況を逆手に取り、慇懃無礼を装った冗談でこの難局を乗り切ろうとしたようである。
私は、そんなことは意に介さない。連絡が無い状態が普通だと思っているので、連絡してきた=何か容易ならざる事態が起きている、と決め付けている。もう何があったのか知りたくて仕方が無いので、「なした」のオンパレードである。
私には、彼の名前だけで十分だった。5年間は空白ではなかったのだ。私は、懐かしいとすら思っていなかったようである。
友あり遠方より来たる、どころか、私の感覚はずっとすぐそばにいたのと何ら変わらなかった。
 
彼「いやあ実はですね。今度結婚することになりましてね。」
私「あ、ほんとー。おめでとう。で、いつ?」
彼「いや、まだ先なんだけど。」
私「そうなんだ。先っていつ?」
彼「うんとね。9月」
私「はあ?何だよ、まだ全然先じゃねえかよ。」
彼「いやあ。こういうことは早いほうがいいかと思って。」
私「まあそうだけど。俺はまたいきなり電話してくるから、てっきり今週か来週ぐらいかと思ったよ。お前のことだから。」
彼「まあまあ。そういうわけで。式に来てもらいたいんだけど」
私「あー。何かめんどくさいから行かなくてもいいかな」
彼「ちょwwwwおまwwwwwwwww」

 
今こうして振り返ってみてよくわかったのだが。
私には、からっきし常識というものがないようである。
普通、1週間後に式を挙げる人間から電話は来ない。式を挙げるとなったら2~3ヶ月前に周知するのが普通であろう。そのへんの時期に連絡しないような人間は、呼ばないのだ。
自分が式を挙げていない上、彼と結婚がどうにも繋がっていないところがあったので、電話=急用=すぐ式に決まっている、とごく単純な決め付けを行ったようだ。「お前のことだから」も何も、全て私のことである。
まだ敬語を引きずっていた彼も、ついには私のペースにすっかり引き込まれたようだった。
 
その後、私が昼飯を食っていたコンビニのすぐ近くに彼もいることがわかり、感動の再会、ということになるのだが。
互いの今の状況やら、この5年間の来歴やら、共通の友人の消息やら30分ばかり話し、まあ式の話は近くなったらまた、ということになった。
今こうして振り返ってわかったのだが、私は彼に「嫁さんはどんな人?」だとか、「どんな馴れ初めで?」だとか、私が聞かれたようなこと、普通結婚する者に聞くようなことを、何一つ聞かなかった。
もっぱら式の日取りだの、彼の仕事の状況だの、「私の都合と我々二人の関係」の話に終始し、その外側には一切興味が無かった。彼とは友人だが、かみさんや家族と私は関係ないと思っている、もっと言えば関係になると面倒くさい、と思っている部分があるようだ。
 
ほとんど馬鹿話に明け暮れ、まあそのうちまたメシでも食おうや、ということで別れた。
私のことだから私からは連絡しないままだろうが。私よりは多少マメな彼からは、そのうち本当に電話がかかってくるかもしれない。
電話が来たらなんて言おう。とりあえず「メールでやれ」って言うんだろうね。面倒くさいから。

2 comments:

Anonymous said...

三冶さん、こんにちは☆

>Bloggerでの記名コメント投稿って・・・
やりにくかったですわ。私、こういう形式での経験がないせいもあって。で、おとつい「その他」で名前を打ち込んで入力したんですけれど、何故か投稿されませんでしたので、昨日、無難?に「匿名」で投稿しました。

ところで、昨日のお返事の『「みな言ってるから」と、根拠にも何にもならないことを言われると、嫌』っていうのはよ~く分ります!これって自称「素直」な人に多そう!「新聞に書いてあったから」「誰それさんが言っていたから」「本に書いてあったから」etc・・・付和雷同、長いものには巻かれましょ、寄らば大樹の陰、日和見主義の最たるもので。

>そういう私の性質を理解できない人間に「友達だろ?!な、友達だろ?!」と、言われても「どこがだよ」と思ってしまうのである。

フフフ・・・私も(笑)でも、男にもいるのね?!ビックリ!
女に多いのよ。重くてウザくって鬱陶しい「そっとしておく」ということの見事に出来ない「お友達♪」ごっこの好きな、そういう「いい人」ぶりっ子の自分におぼれているだけの、それでいて無自覚の<自己陶酔型>が、それも相当数。。。

幼稚園じゃないんだから、っていうのが!

「みんなひとつ♪」「みんな違ってみんないい♪」金子みすずじゃないんだから、って言いたくなるのが。

(ちなみに、「みんな違ってみんないい」は彼女の希望的、願望的観測?で、本当にそう<達観>していたら、おそらく自殺はしていない筈、と、私なんかは思いますが)

と、話が逸れましたが、相手をそこそこ理解もしていない者に(迷惑千万なので)安っぽく友達面しなさんな、己の価値を押し付けなさんな、といいたいですね。全く!

思えば電話って、よくよくのことでもない限りしなくなりましたわ、私も。
以前は電話魔で2時間3時間は当たり前!夜の11時頃に始まった電話が気がつくと夜が明け、家人が起き出して来たのも1度や2度ではなかった・・・アルコールが入っていたのも勿論ありますが、時間の感覚がなくなって、プチ浦島太郎状態で・・(汗)。。

でもメールという便利この上ないものが登場して以来(現金にも)電話は面倒になりましたわ。タイミングを間違えて掛けると(掛かってくると)これほど迷惑なものはないですし、実際。。その点メールは時や場所を選ばず、好きなときに出来るのが魅力ですね♪

長々御免んなさい(笑)
以上、マリアからでした☆

三治 said...

>マリアさん

連日どうもです。

金子みすず。わたくし不勉強にして全く存じませんでした。
多分知らないのなんて私ぐらいでしょうが、もし私以外に知らない人がいた場合に備えて問題の詩、全文引用。


 わたしと小鳥と鈴と

 わたしが両手を広げても
 お空はちっとも飛べないが

 飛べる小鳥はわたしのように
 地べたを早くは走れない


 わたしが体をゆすっても
 きれいな音は出ないけれど

 あの鳴る鈴はわたしのように
 たくさんな歌は知らないよ


 鈴と小鳥と それからわたし
 みんな違って みんないい


私は希望的観測というより、そうであったならいいのに、というか、そうであるはずなのに、という切なる願い、と読みましたが。
自分が「いい」と思ってる人は、なかなかそうは言えないものです。
きれいで当たり前の「花屋の店先の花」から勇気をもらうタイプのものとは、違う気がします。

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