2006-07-11

壇上の恍惚

幼い頃から、舞台の上に立つ機会が多い子供だった。
私の通った小学校の学芸会には、意見発表というコーナーがあった。低中高各2学年から一人が選ばれ、全校生徒の前で作文発表を行うのである。
教師のご機嫌取りが得意で、作文にでたらめの美談を並べるなど造作もなかった私は、2年生の時にそれに出ることになった。
何十度となく予行演習を繰り返し。一語一句を暗記した。
舞台袖。緊張は意外なほどしなかった。そんな年でもなかったし、準備も万全だった。人は、失敗の予感の無いときには緊張などしないものである。
幕が開き。壇上に立つ。
不思議な快感だった。父母も合わせて1000人にも達しようかという人々が、私を。私だけを見ているのだ。
終わった後。私は得意満面だった。上級生の女子に、少しモテた。
以来その経験から、学芸会の度に作文だけでなく寸劇や歌などでも重要な役割を与えられるようになった。私にはすっかり舞台は楽しいものという意識が植え付けられていた。

しかし、時は経て。高校に入る頃。ロックに目覚め始めた私は、自己の表現でない、枠にはめられた発表に対して抵抗を感じるようになった。
根の部分に目立ちたがりな所が残りながらも、押し殺し陰に隠れるようになった。
唯一、3年の学校祭でやったピストルズのカバーバンド。これだけは楽しかった。完全に自己を解放することができた。ついでに事故まで解放して後夜祭は出場停止の憂き目を見たが。

大学。就職。段々と目立たない自分が板についてきて。何かの機会で人前で話すとなると、極度に緊張するようになった。
特に今の仕事では、担当の三治さんとして人前で話さざるを得ない機会が多いのだが。毎回冷汗三斗である。
今日はとうとう、地域FMの番組出演まで。自分が何を話しているかわからない。嫌になってしまう。
小二の頃の自信満々の私は、どこへいったんだろうか。

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