2006-07-10

ジダンの頭突き

始めに断っておく。私は開始時間を1時間間違った。だから後半からしか見ていない。その上、延長に入る前に気絶した。だから現場すら見ていない。私が見たのは朝のニュース画像だけである。

多くの人の興味は、どちらが勝つかよりも、この試合でピッチを去るジネディーヌ・ジダンという名選手のラストダンスにあった。
間違いなく、彼は主役であり、注目の的だった。

どこの世界にも、間の悪い奴というのがいる。
他人の期待のままには動けない奴というのがいる。
どうやら彼も、その類だったようだ。

あまり語られていないが、彼には前科がある。
フランスW杯。地元の期待を一身に背負っていた彼だったが。南アの執拗なマークに苛立ち、スライディングしたDFを飛び越える時に、その黄金の右足で故意に腹を踏みつけたのだ。
当然、一発退場。次の試合、ジョルカエフが代役を務めたフランス代表は、ぎこちない試合運びを余儀なくされた。

だが、それならまだいい。フランスが本当に優勝するとはあまり思われていなかった試合での話だ。
その後クラブで何度か頭突きをかましているが、それもいい。

今回は違う。予想ではなく感情で、フランスに優勝して欲しい、という気持ちを多くの人が抱いた中での犯行である。
しかも、ニュースで見る限り、何かやられた直後ですらない。唐突に、だ。
多くの子供達に夢を与えるフェアプレー精神なんてものとは、遠くかけ離れた、単純な暴力である。

笑ってしまった。さすがジダン。去り際まで彼は異質な存在だった。
その上背と頑丈な骨格から、ユヴェントス所属時代はディフェンシブな役割も多く求められた。名を上げたのは確かだが、確たる名声を得るほどではなかった。
スペインでかなり自由な立場を得たが、全盛は既に過ぎていた。チームメイトと打ち解けられず、孤高の存在としてそのプレーでのみ周囲を黙らせていた。
唯一、常に彼を求め、彼が王様として君臨できるチーム。それが代表だった。一度は引退を告げながら戻ってきてしまうほど、彼は代表を愛していた。
だからこそ、彼は最後の舞台に代表を選んだのだろう。
そして、決勝まで進出。準決勝ではカードを恐れたか、彼にしてはいやに簡単なプレーが多かった。必ず、決勝のピッチに立つという固い決意が伺えた。

その状況で、あの頭突きである。

ジダン。俺はお前が好きだぜ。誰が何と言ってもお前が好きだぜ。

No comments:

↑ このブログがお楽しみ頂けたら押して下さい。ただの「拍手」です。