2006-07-28

鏡のなか


当たり前のように。そこには現実そのままが映し出されているように思ってしまうが。やはり、違うものである。
左右が逆。というだけでのことではない。誤って飛び込んだ少女でなくとも、じっと見つめるだけでも。異次元を彷徨うかのような錯覚に陥ることはできる。

私が、日常生活で一番よく見る鏡は、車のバックミラーである。それも右のドアミラーを多く見る。ルームミラーを大きめにして後方左の視野も確保しているから、左ドアミラーはあまり見ない。
いなかみち。
北海道には、5kmやそこらの直線道路は、いくらでもある。
当然、車はほとんど来ない。前を見ていれば、まず危険はない。いや、前もろくに見なくても危険に遭うことは滅多にない。
そんなとき。ただでさえ運転中はうわの空で、妄想の世界に飛んでいることの多い私は。私の視線は。延々とよそ見を繰り返すことになる。
景色の変化があるところは、まだいい。せいぜい横を見ているぐらいだ。
田んぼの真ん中。飽きるほど似た景色の中。
知らないうちに、じっと右のドアミラーばかり見て走っていることがある。

過去。現在。未来。
これを、車に乗っている状態と考えてみる。
実は、運転席からは全てを見渡すことができることに気付く。
現在。これは、車内の光景だ。
日差しの角度。温度。風の匂い。今いる状態は、刻々と変化しながら、自分は常に現在として変わらず車中にある。
未来。フロント越しに見える景色は、未来そのもの。
はるか遠くに霞んでいた山並みが、みるみる近付き。いつか道は峠へ差し掛かり、やがて山々の影に隠れていた町並みが姿を現すのである。
では、過去は。
バックミラーに映し出される、通り過ぎたものたち。
いい匂いがした焼鳥屋。目にも鮮やかな花畑。山と積まれた瓦礫。踏み付けたかもしれない猫の死骸。
次第に遠ざかり、やがて視界から消えゆくものたち。
記憶にも残らないような、それらを眺めながら、まるで違うことを考える。

───いつまで、続くかな

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