2007-03-27

上から読んでも下から読んでも八百屋です。 ~20~

~16.アッタマ来ても冷静に。青果担当の苦情処理~
 
魔法のiらんどのアイポリスで、「表現の自由」についてのユーザーアンケートが実施されていますね。
私は昨日知って、全問(確か16問ぐらいありました)答えてきたのですが。その内容は、以前私が送った質問、というより苦情の内容をかなりひきずったものになっています。
私の中では既に終わったこと、というか魔法のiらんどには期待しないことにしたのですが。言われた側はまだ引きずっているようです。
およそ苦情というものは、言った側は言うだけ言ってスッキリして、意外と忘れていたりするものですが。言われた側にはいつまでも奥歯で砂を噛むような苦い思いが残るものです。
あれだけ言っておいて、私の中でのメインコンテンツは既に移転してしまっているわけですから、若干申し訳ないような思いもありますが。
やっぱり私が悪いわけではないと思っているので、気にしないことにしますw
 
苦情処理については、そのやりとりの中で書いたことがあります。
(2006年9月25日『苦情処理』)
今回は、前回の記事で端折った具体的な部分も含め、実際の対応と効果について話をしてみたいと思います。
 
非常に腐りやすい、いつ腐るかが予測しにくい青果と苦情は、とにかく切っても切れないものだと思います。
どんなに新鮮なものだけを並べていても、品物それぞれが生きものですから、個体差でおいしかったりおいしくなかったりがあります。どんなに大丈夫だと思ったものでも、内側から腐ったりスが通っていたり(主に大根・ばれいしょ等、根菜類で芯に空洞ができることをこう言います)します。
苦情を全て防げる担当者はいません。収穫した生産者の方ですら気付かないことは、担当者レベルではわかりません。
また、食味には影響はないけれども、見た目上変質しているように見える、という場合もあります。
今の時期なら、春大根はそうした苦情が多くなります。葉からどんどん水分を蒸散する夏場と違い、この時期の大根はその太い根の中に水分をたっぷり蓄えています。春先の高い日差しを受けるまでに蓄えを作り、一気に葉を伸ばそうとするのです。
その根の断面は、真っ白な夏場と違い、真ん中のあたりが黒っぽく見えます。根の組織色より水分の反射色が強くなるからです。
土壌のミネラル条件によっては、稀に青や緑の色がついたりもします。これは川や湖の水が青や緑に見えたりするのと同じ原理で、やはり食べても問題はありません。
本来は、夏のものより瑞々しく甘味もあっておいしい春大根ですが。そういう見た目に慣れていないお客さんが見れば、傷んでるんじゃないの?という苦情になります。
食味はなんともないですよ、とあらかじめPOP案内しておけば苦情は防げるのかもしれませんが、お客さん全員が見るとは限らないし、何ともありません、とわざわざ掲示すると何となく怪しい印象を与え、買い控えに繋がる場合もありますから、慎重にならざるを得ません。
たとえ何とも無くても、食べものというのは見た目も重要です。おいしい見た目のイメージ、というのは各人で千差万別であり、そこから大きくズレた、というクレームなら、店としては返品対応を受けざるを得ないのです。
理不尽なようですが、お客さんが求めているものを売るのが店と考え、気に食わない、電話をかけたくなるほど気に食わない、というお客さんの気持ちを考えれば、当たり前のこと、なのかもしれません。
 
電話が来るのは、主に夕方になります。
夕飯の仕度で、その日買ったものの不具合に気付くわけです。
各部門のバックヤードに電話は備え付けられていますが、店の代表の電話番号は事務所の電話しか鳴らないように出来ています。担当が電話に出られるのは事務のおばちゃんを一旦介し、バックヤードに転送してからになりますから、お客さんのイライラ度は当初よりヒートアップしています。
電話に出たら、私はまず名を名乗り、「この度は大変申し訳ありませんでした。(商品名)の件ですよね?具体的に伺えますか?」とここまではほぼ定型文で受け答えしていました。
マニュアルがあったわけではないので、自己流なのですが。お客さんが求めているのは、まず謝罪だろうと。話を聞くのはそれからだろう、と考えていました。
よく、電話に出ていきなり「どうしました?」とか聞いてしまう担当者がいる(私と一緒に働いていたあのオジサンは毎回でした)のですが、それはあれだけ事務のおばちゃんに怒りをぶつけたのに、何も引き継いでないのか、という燃料を投下してしまうと思います。
具体的な中身は聞いていなくても、どの品物か、というぐらいは必ず聞いているでしょうから、そこはこちらから切り出すべきだと考えていました。
この時点、つまり「(商品名)の苦情」と言われた時点で、実は担当者にはだいたいの察しがついている場合が多いものです。商品の特徴と、その商品が苦情に繋がるリスクはあらかじめ把握しているからです。
今時期であれば、一番多いのはいちごです。およそ青果の主力扱い品の中で、いちごほど傷みやすいものは他にありません。でもこの時期は、全商品に占める『単品売上構成率』のダントツトップですから、どうしても冷気が出るレギュラーケースではなく、常温の平台で、大きくフェースをとっての陳列になります。お客さんが触れる回数も多くなりますから、傷み足はさらに加速します。
しかも、あの独特のフルーツケースに2~3段積み、といういちごの産地パック形態は、ものすごく鮮度点検がしづらいものです。売場でパックを開けるわけにはいきませんから、一旦並べたらあとは外から目視するしかないのですが。果実同士がこすれあう、一番キズがつきやすく腐りやすい部分が、外からは極めて見えにくいのです。
外から見てちょっとでも変質があったり、何ともなさそうに見えてもケース内につゆが出ていたりしたら、即値引きシールを貼ったり引き下げて少量パック用にしたりしてはいるのですが。どうしても見落としは出ます。
上部からの押圧に非常に弱い製品形態をしていますから、お客さんが無造作にカゴにつっこんで後で上からモノを乗せて潰れた、というパターンも、きっと全然ないってことはない、担当者だけのせいじゃない、ように、どうしても思ってしまうのですが。それだってなら潰れないような形態で店に並べろよ、と言われたらグゥの音も出ないので、店で責任を取らざるを得ません。
と、いうような状況を高い精度で把握していればいるほど、つい「あ~、わかってるんですけど、この時期はどうしてもあるんですよねえ~。すいませ~ん」なんて口を滑らしてしまいがちになるのですが(私もよくやってしまいました)、それを言うと確実に怒りの炎に油を注ぎます
 
客「わかってるならなんでちゃんとやらないんだ」
店「いや、やってるつもりなんですが。仕方ない部分があるんです。すみません。」
客「仕方ないじゃないだろう、仕方ないじゃあ!」
店「え、あの、そういう時は全て交換してますんで」
客「そういう問題じゃないだろうが!取り替えればいいのか!責任感はあるのかあ!わからねえなら売るんじゃねえよ!!!!11」
店「(´;ω;`)」
 
という、最悪な流れになってしまいます。この部分は、ノンフィクションです
店にとっては予測していたことで、仕方ない、と思っても仕方ない部分があるのですが。それを先に言ってしまうと非常に印象が悪くなります。次に挙げる正しい(?)対応例と対比してもらうとわかりやすいかもしれません。
 
客「(傷み商品の状況の説明)」
店「そうですか、私どものチェックミスです。本当に申し訳ありませんでした。すぐに代わりの品物を持ってお届けに伺います。」
客「そうですか。お願いしますね。
 ・・・ところで、こういう傷みってよくあるんですか?」
店「はい。いちごは傷みやすい商品ですから、どうしてもチェックが行き届かない部分が出やすくなるんです。そういう品物をお渡ししてしまった場合は、全て交換かご返金で対応させて頂いておりますので、何卒ご了承下さい。」
客「あら~、大変なんですねえ
 
客がおっさんからおばさんにすりかわってる、とか細かいツッコミは置いておくとして。
店が言っている中身は、ほとんど同じです。でもお客さんの反応は、これぐらい違います。
大事なのは、話の順序です。繰り返しになりますが、お客さんが求めているものはまず「悪いものを掴まされた」ことへの謝罪です。その次にカネはどうなるんだ、という心配です。店の都合なんて、基本的には知ったこっちゃない、というところでしょう。
だからまず責任を認め、謝罪し、それから満足してもらえる対応策、ここまでを言われるより先に言うのが大事です。
とりあえず既に起きてしまった部分、過去から現在までのイレギュラーへの心配事が去ったお客さんに、あと残っているのは今後買い物するに足る商品なのか、店なのか、という未来の安心に繋がる部分です。こういう傷みはよくあるの?というのは、こっちから言わなくてもまず聞かれるのです。
聞かれる前にその「未来の話」をしてしまうと、さっき買ってきたモノが、今目の前で腐っている、という「過去から現在の話」と混同してしまうので、「今腐ってることの言い訳」としか聞いてもらえません。
「過去から現在」へのきちんとした説明をして、その部分の不安をきちんと取り除いてから、店の都合とこれからの対応を説明してあげれば、この混同は起きません。未来への不安を解消する言葉として聞いてもらえます。
悪いものを掴まされた、この店は大丈夫なのか、という心配が全て取り除かれたからこそ、最後には「あら~、大変なんですねえ」という労いの言葉すら出てくるわけです。
 
前回も書きましたが、苦情というのは店への期待の裏返し、という部分があります。あの店が売っているんだからいいものだ、という期待があったからこそ、悪いものにがっかりしてしまうわけです。
私の店は、特に最後のほうは「とうもろこしを買ったけど味が無かった」だとか、「りんごがボケてたみたいだからジュースにしたけど、これから気を付けてね(交換・返品の要求は無し)」だとか。言われたい放題に電話がきまくって、忙しい時にコノヤローとカチンと来ることもありましたが。期待の現れ、期待の現れ、と自分に言い聞かせ、決して頭に血が上らないようにしていました。
逆に、苦情の来ない店、というのは気をつけたほうがいいかもしれません。その程度のモノを売る店だ、という認識であれば、わざわざ電話したりしないはずだからです。
いいと思ったのに思ったほどでなかったから苦情電話になったわけで、それは普段からいいモノを買ってもらって満足してもらっている、ということの裏返しでもあるからです。
中にはただただイライラとブチ切れていたり、腐ってないところだけ使ってから代わりをよこせ、代金も返金しろ、という「訴え得」を狙うような、俗に言うクレーマーのようなお客さんもいますが。きちんとした対応が出来れば、次第にいなくなります。
また、一日3000人クラスでお客さんが来る店にいると、売れるのが当たり前、誰が買ってるんだかは知らない、という、お客さんの顔が見えない状況、ひいてはお客さんの立場で売場を作れない、という状況に陥りがちになります。お客さんからも、担当者の顔は見えません。いつも何となく買うだけの店、から抜けられないのです。
苦情ほど、感情を露わにしたお客さんに触れる機会はありません。そこできちんと対応が出来れば、その店が「あの人がやっている店」になります。そういう機会は、他にはありそうでなかなかありません。
 
怒られて気分のいい人はいないでしょうが。苦情には、お客さんの期待がこもっている、と思うと、だいぶ気分が違います。
無いにこしたことはない、と思ってしまいがちな苦情ですが。それが避けられないものである以上、逆に最大限に生かそう、という発想も必要なのではないかと思います。

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