2007-04-12

国防論批判

国民投票法案は、今日採決に至る公算が高いらしい。
議会制民主主義の国家にとって、特定の案件についてわざわざ改めて国民に投票させる意味が未だにわからないが。
要は、あのオツムの弱いおぼっちゃんの頭にあるのは憲法改正・軍隊の所持、それだけだろう。
「国防」の上で、果たして今以上の軍備は日本に必要なのだろうか。
それも未だにわからないのだが。
 
侵略戦争というのは、要は資源の奪い合いである。それは今も昔も変わらない。
よく、神だのイデオロギーだのを戦争の意図として持ち出されることがあるが。そんなものは動機の美化脚色に過ぎない。
十字軍はシルクロード通商の要衝だから中東に出征したし、キリスト教の正しい教えを広めるためと言った欧州諸国は植民地を搾取し続けた。
イラクはクウェートの原油とペルシャ湾の港が欲しいから侵攻したし、日本は大陸の広い国土を求めて満州を制圧したのだ。
イデオロギーだけでは戦争は起きない。イスラエルと周辺に問題が起き続けるのは、そこが交通の要衝だからだ。「聖地」が二つの宗教で重なるのは、そこが栄えやすい土地柄だからだ。
アメリカでユダヤ人とイスラム教徒が出会えば、必ず喧嘩するだろうか?利害も無いのに喧嘩するような暇人はそんなにいない。
 
果たして、今の日本に攻め込む意味、つまり得られる資源は、他国にとってあるのか。
やたら細長く、山だらけで平地が少なく、農業にも工業にも向かない国土。
夏はやたら蒸し暑く、冬は凍えるほど寒く、台風も大雪もあるうえに地震の恐怖にも常に怯える気候風土。
鉱物も石炭もあらかた掘り尽くし、石油や希少金属が出るわけでもない埋蔵資源状況。
水産資源には多少魅力があるだろうが、今の日本の周囲の200カイリ経済排他水域を奪ったところで、たかが知れている。
日本人にとってはかけがえの無い美しい国土だが。他国から見ても魅力的になり得る国土だとは、私にはどうしても思えないのだ。
こんな国に攻め込みたい、世界的非難を浴びて袋叩きになるリスクを背負ってまで攻め込みたい、なんてアホな国は、本当に存在するのだろうか。
 
今の日本の最大の資産は、そんな国土で工夫を重ね、経済を発展させてきた「人の力」である。技術の蓄積と、その結果としての蓄財なのだ。
それは、武力で攻め込んで奪える種類のものではない。奪ったとしても、奪ってオシマイだ。後に何も続かない。
工場を爆撃すれば、全てパーだ。奪ってしまえばしばらく稼いでくれる油田とは違う。人を武力で奴隷にしたって、奴隷が今ほど働くはずがない。
蓄えてあるカネが一時的に手に入るとしたって、そのカネを得るためにどれだけの軍備資金が必要なのか。費用対効果が悪すぎる。下手したらマイナスだ。
こんな国を攻め落として、イラクのように袋叩きにあって骨抜きにされたいアホな国は、本当に存在するのだろうか。
むしろ、近隣諸国が日本に軍備放棄を求めるのは、本気で日本が再度侵略してくるかもしれない、という心配ゆえだろう。
それらの国から見れば、日本という国にはからっきし資源が無いのだ。自国のほうがまだ資源に恵まれていると考えていれば、侵略を恐れるのは当然のことである。
日本の国力を軍備中心に傾注したら、どれだけの破壊力があるか。たった60年前に侵略された国々が、それを忘れるはずが無いのだ。
そうした感情に対し、恨みだの終わったことだのと言う権利は、日本には無い。原爆を二つ落っことし、非戦闘員を何百万と虐殺したアメリカを日本は恨んでいない、というのとは次元が違う。
 
こういう国から、オイシイところだけ奪おうとするなら。方法は二つある。
一つは、北朝鮮の方法だ。
北朝鮮が最初にノドンを日本近海に落としたのは、14年前だ。それ以前は拉致を中心に活動していたらしい。
侵略戦争が強盗殺人だとすれば、この方法はヤクザや総会屋の脅しである。やられたくなければ金を出せ、というわけだ。
直接攻撃よりも、示威行為のほうが効率がいい、という考え方である。
それに対して武力を高めたところで、何か効果はあるのだろうか。現状の自衛隊で不足はあるのか。やられたらやり返すぞ、ったって、東京に核をぶちこまれた場合の日本の損害と、平壌を爆撃された北朝鮮と。損が大きいのはどちらなのか。
一撃で蒙る被害が確実に日本のほうが大きいから、たとえ北朝鮮以上の武力を持ったところで脅しは成立し続けるのだ。豪邸に何人ガードマンを雇っていたって、ナイフ一本で大富豪を脅すことはできる。
それを防ぐために必要なのは、やれるもんならやってみろと言い切れる胆力である。やるにはリスクが高すぎるからやってこないのだ。現実に実行できるわけがない。そう思い切れる胆力である。
別に武力は必要無い。まるで無かったら問題かもしれないが、少なくとも現状で不足ということは無いはずだ。
 
さて。もう一つは。
むしろ、この「もう一つ」の対策を、軍備より先に日本はやらなければならないのだが。
「人の力」が最大の資産であり資源なのだから、それを奪ってしまえばいいのだ。企業買収である。
バブル崩壊後の15年で、いったいいくつの会社がアメリカ外資に乗っ取られたのか。日本の蓄えてきた技術のどれだけが、アメリカ人の私腹を肥やすために使われているのか。
「民間」の隠れ蓑を着て、「グローバルスタンダード」に基づいた「自由な経済活動」だと虚飾してはいるが。
その民間が吸い上げた利益は、本社のあるアメリカという国家に税金を納めている。日本から得た利益を本社で配分し、アメリカ内で消費し還元している。
日本の税として納められるべきカネが、人の力が、日本の国家、つまりみんなが必要とする福祉や公共投資に使われず、アメリカに流れ出しているのだ。
タケナカ・コイズミの馬鹿コンビによる規制緩和で、この流れに歯止めが利かなくなった。その見返りとして何があったかは知らない。ひょっとしたら安保体制化での国防上の取り決めがあったかもしれない。それは知らない。
知らないが、役に立つかどうかも怪しい安保などよりもっと重要なものを、この二人がブチ壊したのは事実である。
 
日本を守ろうと言うのなら、よそが日本の何を欲しがっているかを考えなければならない。
いくら体を鍛え、拳銃を持ったところで、陰からドンと脳天を撃たれれば終わりだ。
脳天を撃たれても撃った相手に何も渡らぬよう備えておけば、わざわざ撃って殺人犯として指名手配されるリスクを負いたい者などいない。それが本当の「国防」というものだろう。
幸い、もともと日本には相手に渡る種類の資産が少ないのだから、本来方策は単純で簡単なのに。それに気付かず腕立て伏せを繰り返そうとしている。
そういう馬鹿政府を倒すために有用なものになるなら、国民投票だって捨てたものではないが。
国を売ろうとしたコイズミに全権委任に近い権利を与えようとしたこの国に、本当にそこを考えられる人間はどのぐらいいるのか。
 
関連記事:にしんと石炭とリゾート

No comments:

↑ このブログがお楽しみ頂けたら押して下さい。ただの「拍手」です。