上から読んでも下から読んでも八百屋です。 ~25~
~特別編・食品販売者の責任~
先週から、大変な話題になっている一件。ミートホープ問題について、元青果担当販売員としての立場で書いてみたいと思います。
牛肉ミンチに豚肉を混入していた件が発端となり、この会社の悪質な手口が次々と明るみに出てきました。
故事成語の”羊頭狗肉”じゃあるまいし。まさか現代の日本でそんな業者がいるとは。消費者として、というより、それを小売する人間の立場として。許せない思いでいっぱいになりました。
当初報道では、厳罰に処する法律がない、などとも伝えられていましたが。馬鹿言っちゃいけません。本来の品質を偽っていたのですから、立派な詐欺罪で立件できるはずです。逆にこれに詐欺が適用できないなら、世にあまたある悪徳商法・霊感商法の類は全て立件できないことになってしまいます。
単に「食の安全を~~」云々という話ではないのです。北海道産牛肉と表示して別物を売ったのですから。ガラス玉をダイヤと言って売ったのと何も違いはありません。
従業員の解雇がどうしたこうしたという報道も流れていますが。事件が内部告発で明るみに出たように、内部で実情を知らない人などいなかったはず。わかった上で指示に従ったのですから、本来彼らだって刑事告発の対象となり得るのですから。生活保障云々を言う権利は、彼らにはありません。
ところで。
廃棄処分の対象となったコロッケを横流ししていた(らしい)加ト吉以外、特段「取引先」を責める声はないようですが。それもおかしな話だな、と思います。
お客さんは、誰からコロッケを買ったんでしょう。ミートホープから直接買ったわけではありません。店で買ったはずです。
店で買ったということは、その店の利益になる分のお金も払った、ということです。つまり、偽装コロッケで利益を得ていた、という意味では、本来店もミートホープと同罪なのです。
知らなかった、が通じるわけがありません。商品を売って商売をしようというのですから、自分の売るもののことは自分できちんと把握しているのが当然です。できていなかった小売店をはじめとする取引先にも、重大な責任があるのです。
これは最近相次いでいる家電製品のリコール騒ぎでも言える事ですが。小売店は、自分の責任下で仕入れた商品をお客様に販売してメシを食っているのですから。マズいものを売ったのなら、そのお客様に対しての直接の責任は店にあるのです。
例えば、本シリーズで苦情処理について書いた時の対応で言えば。
たとえ何ら店に落ち度がなくても、青果というのは必ず不良品が含まれています。それも、切ってみるまで、食べてみるまでわからない、という店ではどうしようもない不良品がかなりあります。
それでも、お客さんは当然、買った店に文句を言います。たとえ生産者の顔写真入りの産直商品であっても、産地に文句を言ったりはしません。
店としては、自分の足でお客様のお宅に伺い、申し訳ありません、と頭を下げ、交換なり返金なりして、お客様から頂いた苦情電話の代金まで払います。
それにかかる経費、モノの代金やら交通費やら電話代やら、一旦は全て店で持ちます。赤伝として仕入れ元に請求できる状況なら、請求しますが。それは原価分、つまり代金を仕入れた分の値段だけです。その他経費まで請求する担当者なんていません。
仕入れ元は、店に売るまでが責任です。だから、店に入れた値段は保障しますし、代わりの品物が必要なら店に持ってきてくれますが。お客さんに売る部分の責任は、店にあるのです。原価と売価の差額分の値段、つまり利益や、お客様の対応にかかる費用は、店の責任の範囲なのです。
でなければ、店の利益分はなんのために払っているのか、という話になります。原価ツーツーで一切利益もらってません、では店は成り立ちません。自分の責任でやっている仕事があるから、お客様は利益分も店に払っているのです。
勿論一番悪いのは製造元ですが。全ての責任をそこに押し付けるのは間違っています。おいしいですよ、と宣伝して売りつけ、儲けたのは小売店も同じなのですから。
とは言いながらも。
もし自分が担当者だったら、と思うと、そら恐ろしい気がします。
青果で例えれば。
水煮して真空パック詰めされたたけのこなど山菜類。国産ですと書いて中国産が入っていても、まず絶対にわかりません。大豆もやしですと言っている商品の、ごく少ない何割かが他の豆のもやしに摩り替わっていたとしたら。まず絶対に見た目だけでは判断ができません。袋を開ければ、食べればわかるか、と言われても、からっきし自信がありません。
千切りキャベツ、という商品があります。工場でキャベツを千切りし、無菌パックしてそのまま食べられます、という商品です。あれの一部が白菜に代わっていて、気付く担当者はいるでしょうか。私は自信がありません。食べればさすがにわかるでしょうが、無菌パックされているんですから、全てチェックしてから販売、なんてできることではありません。
それは私の経験が浅いから、というわけではありません。私だって、シロウト目にはまず一緒にしか見えない、おいしいまずいしかわからないイチゴを、これは栃木産のとちおとめ、こっちは仙台のさちのか、これは福岡のとよのか、これは鵡川のけんたろう、これはアメリカ産の輸入品だから食べないほうがいい、と言い当てる能力ぐらいはあるのです。
それでも加工品、特にパック詰めされた加工品が、どこのどんなものか。食べずに、どころか袋も開けずに言い当てる、というのは至難の業です。
じゃあどうするか。信頼できる取引先から入れる、という以上は、出来ることがないのです。
小売、特に食品販売者にとって、一番大事なのはお客様の信頼です。
うまいこと言って騙したって、食べればうまいかまずいかはすぐわかります。信頼されるかされないかは、商品の質に全てかかっているのです。
信頼のある店には、チラシを出さなくたってどんどんお客様が来てくれますが。信頼のない店は、どんなに安くたってお客様は入りません。
だから、並べる商品には細心の注意を払いますし、万が一何かあった場合には誠心誠意対応をします。
不特定多数を相手にしていると、一瞬たりとも気が抜けません。一つ腐ったみかんが並んだばっかりに、その後ろにいる50人のお客さん全てを失うことだってあるのですから。
その集中力は、会社と会社の取引になると失われがちになります。こっちも相手も一対一の担当者同士、取引する商品は莫大な量ですから。自分の食べる分だけをよく見て口に運ぶお客様相手とは、どうしても違ってきます。ちょっとぐらいなら、という弱さが、必ず出ます。
それに甘え、つけこんで。お客様一人一人が食べる顔など何も考えず、担当者の顔色だけ伺い怪しげなものを作り騙し売りつける人が出るのは、この構造の欠陥が最大の理由でしょう。
雪印に始まり、不認可農薬の使用疑惑だとか、加工肉の産地偽装だとか、不二家の期限改竄だとか、そして今回の問題だとか。次から次へと出てくる問題は、全て同じ根を持っています。
それで騙されたら。騙されて買った商品を、お客様に売りつければ。それは、店の担当者の責任にもなるのです。
担当者として、その「売ってしまった責任」を、感じている方はどのぐらいいらっしゃるのでしょうか。
そういう品物だということがわかりにくい状況が、よくわかるだけに。同情する気持ちもありますが。
それでも、ただ怒っていたり、ミートホープに全てをなすりつける発言をする人からは、私はモノを買いたくありません。自分の責任を把握し、誠意ある対応をしている人がいれば、その人から買います。
自分のこととして、自分の責任として考えておられる方は、どのぐらいいらっしゃるのでしょうか。
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