香田誉士史という男
先発、菊地。
2番手、岡田。
ここまで8本塁打の智弁和歌山打線を相手に、この糞度胸。
盛んに「チャレンジャー精神」を繰り返す彼だが。
本気だ。3連覇を誰より欲しているのは、間違いなく香田監督である。
昨夏の2連覇以降、辛い事件が二つあった。
一度目は、前部長による暴力事件。
和を重んじ、全員野球を掲げる彼の、恐らくは与り知らぬ所で起きていた事件。
それでも、大きな責任を感じていた。
結果についてはとやかく言わない彼が、秋の国体。初めて、勝負の鬼となった。
勝つぞ。勝って答えを出すぞ。
選手達は、応えてみせた。
さらに、秋の全道。さらに神宮大会。
勝ち続けることで。自分達の、まっすぐな野球で勝ち続けることで。人々は、再び迷いなく駒苫を応援してくれるようになった。
練習試合でも勝ち続け、連勝は40を超え。春の選抜を絶対の大本命として迎える、はずだった。
目前。3年生の卒業式後の飲酒事件。
誰もが引き止めるのを振り切るように、彼は監督を辞任した。
何も語らず。全ての責任を負う覚悟を見せた。
だが、市民は知っていた。彼の誠実さを。野球を通じ、多くのことを伝える手腕を。
一部市民から始まった監督復帰の署名活動は、あっという間に8万もの数を集めた。
5月。一時は部長という形でチームに合流し、その後監督に復帰した彼は、しかし闘志は内に秘めた。
自分の責任で選抜に出してやれなかった選手達を、甲子園に連れていく。そこまでが使命だと繰り返した。
しかし。用意は周到であった。
甲子園に繋がらない、春の全道。全試合でエース田中を先発から外し、影に隠れがちな2番手以降の投手にチャンスを与えた。
夏の大会に入ると今度は全試合田中を先発させ、負けられないというメッセージを選手に発すると共に、田中の、連投の限界を見極めた。
こうして。準備が整っているからこそ。大会随一の長打力を持つ智弁に対しても、田中を休ませることを優先させた。
田中にスイッチしたあとは1失点。田中が最も得意とする相手であることを熟知していたからこそ。休ませることが出来たのだ。
さて。いよいよ決勝。
エースの力。打力。守備力。ほぼ互角であろう。
しかし早実は、最後までエース斎藤に任せるしかなかった。
3回2/3とはいえ、田中を助ける、休ませる、というメッセージをチームに与え続けた香田監督の準備は。
実は大きな鍵になる気がする。
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