2007-02-05

一人の夜明け

山形プチ災難旅行は、実はまだ終わっていなかった。
私は、新千歳空港まで車で行き、近くの駐車場に車を停めていた。
車を取りに行かないと、帰れないのだ。
JR新千歳空港駅は、微妙に札幌-函館の線上に無い。南千歳駅で乗換えが必要なのである。
私の乗る夜行列車・急行『はまなす』の南千歳着は、5:24。南千歳発新千歳空港行きの始発は、6:44。
冬の寒空の下、電車でそのまま帰るというお偉いさんと別れた私は、一人80分間駅のホームで待たなければならなかったのである。

しかも、時間が悪い。
だいぶ前にここにも書いたが、私は夜明け前のこの時間が、一番嫌いなのだ。
着いた頃は漆黒だった空が、ゆっくりと、ねっとりと青みがかってくる。
周りには、もちろん誰一人いない。
時間もさることながら、南千歳という駅はもともとは千歳空港の駅だった所だ。空港ターミナルを新設したので、既往線からの乗り換え用にだけ残された駅なのである。
野っぱらのど真ん中で、周りには何にも無いのだ。
すぐ目の前を国道36号が通っているが、この時間だ。車はぽつらぽつらしか通らない。
電車の一本も止まらない。特急電車も全て停まる駅なのだが、そんな時間ではないのだろう。
そして、携帯の電池までも怪しくなってきていた。空港に着いたら、駐車場の迎えの車に電話しなければならないから、ネットで暇潰しすらできないのである。
寒かった。北海道って、寒いんだな、と。実感した。

薄くかかっていた雲の隙間から、満月が顔を出した。
やあ、お月さん。今宵もお元気そうで何よりですね。
話しかけてみて、そのあまりのバカバカしさにすこし可笑しくなった。ようやく、少し気が紛れた。

青の内側から白が勢いを増し始め、いよいよ気持ちが悪くなってきた頃。
ようやく、救いの船ならぬ救いの電車がやってきた。
朝っぱらから、ほぼ満員である。
日曜の朝だから、旅行客は特別多くもないのだろうが。通勤の人だけでもかなりの数になるのだろう。空港は、周辺最大の商業施設でもあるのだ。
何にせよ、乗ってしまえばこっちのものである。
もう、私は大勢の中の一人でしかないのだ。

駐車場に着く頃、ようやく顔を出した赤い朝日は、特に私を労うでもなく、間抜けなツラで浮かんでいた。
まっすぐ帰る気には、なれなかった。あまりに日常と違う状況にくたくたに疲れた時というのは、人は休息より先に順応を求めるものらしい。
帰ってごろんと寝転ぶ前に、ワンクッション置きたかったのである。
空を白いものが飛び去っていった。思い出した。
冬のこの時間だけ、恐ろしくきれいな場所が、あるのだ。
シガーソケットから電力を得て蘇った携帯と共に、家とは反対の苫小牧の方向へ車を向けた。

ウトナイ湖。白鳥をはじめとする様々な種類の渡り鳥達の、全国でも有数の中継・越冬地である。
浅い湖面のほとんどは、冬は結氷する。
だから、勇払川が流れ込むため凍らないこの一帯に、ほとんどの鳥達は集まってくるのだ。
良く晴れた日の、朝日が昇るこの時間。水面が赤く染まる中を、ゆったりとたくさんの白鳥が泳いでいる。
条件がいくつも揃わないと見られない景色なのである。

なのに。馬鹿というのは、どこにでもいるものだ。
先客がいたのだ。まさかこの時間にいるとは思わなかった。
極めて頭の悪そうなカップルが、向かいのコンビニででも買ってきたのだろうパンをちぎって投げている。
冬は、当然エサが少ない。訪れる観光客に慣れきった白鳥達は、すごい勢いで群がっていた。
もっとよこせとさらに群がる白鳥に、女のほうは「ぎゃああ、こわああい!!!!11」と叫び、男のほうも及び腰ながらも面白がってさらにパンを放るのである。
恐いことなど、あるもんか。ここの白鳥は根っから人に慣れきっているのだ。
うちの4歳の娘だって、いつも平気な顔で手のひらで餌を食べさせている。
そもそも、鳥にパンなどやってはいけない。栄養価が高すぎるし、湖の汚濁にも繋がる。
だから、100円の専用の餌を置いてあるのに。
要は、何も考えていないのだ。馬鹿なのだ。

どうにも今回の旅は、最初から最後までうまく行かない、と。決まっていたもののようだ。
だが、それが人生においてどう転ぶかなど、わからない。じんかんばんじ(ry
 
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