はるばる来たぜ芦別
芦別市。人口約1万8千人。
三笠市・夕張市、さらに赤平市へと連なる夕張山脈の北部にあり、かつてはそれらと同じように産炭地として栄えピーク人口は7万人に達していた。
札幌から高速道路で滝川へ、そこから富良野・帯広へ向かう国道38号線のルート上、富良野の手前にあり、札幌から頭ん中が紫色に染まっちゃってラベンダア♥な人々の、目を覚まさせるこの観音像が目印である。
(※携帯の皆さん、デカくてごめんなさい。)
とにかく、この「北の京芦別」の観音像に象徴される、この街の観光事業は怪しすぎる。「星の降る里・あしべつ」というキャッチコピーは、かなり良く出来ていると思うんだが。あんまり生かされていない。
道内の誰もが、夕張より先にやられるのは芦別だろうと思っていた。
夕張は、かなり正統派な観光地が多い。
マウントレースイは札幌圏から気軽に行ける本格的スキー場として今でも人気があるし、石炭の歴史村は修学旅行の学習コースにうってつけだ。
黄色いハンカチ公園はリアルタイムな人には感涙モノだろうし、皇族もお泊りになられた夕張鹿鳴館という本当に由緒正しい施設もある。
秋の滝の上公園や紅葉山の紅葉は迫力といえるぐらいの凄さで、実際毎年すごい人出で賑わっている。
メロン城やシューパロの湯は確かに調子に乗りすぎだったろうが、全体としてみれば良いものが結構ある。最初破綻のニュースを聞いた時は、まさかそこまで、という驚きを隠せなかった。
芦別は・・・道外からここを目当てに来る、という人はまずいないんではなかろうか。
何と言っても、シンボルがヤバすぎる。ラベンダア♥な脳髄を破壊して余りある威力がある。
実はこの「北の京芦別」は、全国でも類を見ない一大「仏教テーマパーク」である。施設内には温泉や宿泊施設の他に、五重塔や三十三間堂・胎内巡りなど、仏教感溢れる施設がたくさんある。らしい。入ったことが無いから知らないが。
それでいて、宗教法人格は、取っていない。本末転倒も甚だしい。まあ本当に「ほとけのみこころ」を拝みたい人には、法人格などどうでもいいことなんだろうが。本当にほとけのみこころにすがりたい人がこんな所に来ないのもまた、間違いなかろう。
そして、芦別には既に一件、大規模施設破綻の前科がある。露天掘り炭鉱の跡地を再開発し、赤毛のアンの世界をモチーフにしたテーマパーク、「カナディアンワールド」である。
私は、開設後のごく初期に一度、訪れたことがある。丁度頭の中にバラが咲いている時期だった姉が、どうしても行きたいとゴネたからだ。
すごい人出で賑わっていた。入ったとたんに、芳しいハーブの香りに鼻をくすぐられたのを良く覚えている。きらびやかでアンティークな、おもちゃのような建物が立ち並ぶ町並みに、心躍った。
最初だけは。
しかし、まあ、広かった。元気盛りの中学生だった私ですら、全部回りきる前に息切れがした。
入った喫茶店が、まあ、高かった。15・6年ほど前のバブル絶頂期とはいえ、コーヒー等ソフトドリンクの類が全品500円、私が食べたがったソーセージ盛り合わせは3本で1000円である。当然のように、食べさせてもらえなかった。
姉は一人うっとりと、いつまででもいられるような顔をしていたが、私はじめ他の家族の皆は早く帰りたい思いで一杯だった。
「赤毛のアン」の熱心な読者というのは、全国でどのぐらいいるのだろう。テレビアニメでやっていたとはいえ、せいぜい100万人いればいいほうなのではないか。全国民の1%だ。
その1%めがけて、全力で物凄い贅沢な施設を作ってしまったのだ。
残りの99%の国民が楽しめる要素が、全く無かったとまでは思わない。よく出来ている。立派なのだ。
だが、立派な分を、各種料金に跳ね返らせすぎた。維持費倒れで程なく破綻したのは、必然の成り行きだったろう。
その後、施設は市で買い取り、市民公園として再度公開された。
と、いうところまでは知っていたが。あの日以来一度も、訪れたことが無かったのだ。
見たかった。どうしても。それこそ、一人でしか来れない。誰かを連れてくれば、丁度あの日私が姉に食らわせたようなブーイングを浴びるのは必至である。
今日しかない。大好きな旭川の街を早めに切り上げてまで、やりたかったこと、というのはこれだった。
芦別は、結構営業では通るのだが。当然のようにいつも通過する。
富良野には南を占冠から回るか、三笠から美唄富良野線かどちらかなので、芦別は通らない。
旭川-富良野間ではないので、今はやりの旭山動物園中心の道外観光客のコースからも外れる。
じゃあ、いいところは一つも無い、破綻に向けてまっしぐらなのか、と。
いくら何でもそれは寂しいではないか。
旭川芦別線を通っていると、非常に気になる黄色い看板がいくつか建っている。ごく普通の、狭い農道の交差点の角に、「左折5km、○○」などと、なかなかにシブそうな名所案内である。
北の京やスターライトホテルなら、物好きな人がブログか何かで宣伝してくれるだろう。
地元の人しか行かないような所にこそ、本当の穴場があるはずだ。まずはひとつ、それらを私の目で確かめてやろうじゃないか、と。
「調べ物」と言ったのは、このためだ。今日だけ私は、真に芦別復興を願う観光親善大使として。鋭意、これら名所を読者の皆様にお知らせするつもりである。
とにかく、誉める。貶さない。それが、方針である。
神居古潭からスキーリンクスの前を抜け、再び旭川芦別線へ。
新城峠からは、行きでは見えない風景を見ることが出来る。
さすが隣町だけあって、緩やかな丘がいくつも折り重なる景観は、富良野や美瑛とよく似ている。
十勝岳の影響が若干弱いせいか、田んぼが結構あるのが唯一の違い。
棚田の向こうにはるかなるパッチワークの畑。北海道ならではのようで、北海道でもなかなかない景観だ。この場所ならでは、である。
新城峠は、頂上に展望駐車場として、20台ほどの駐車スペースとトイレ、丸いテーブル付きの東屋がある。施設全体で30m×50m程だろうか。
しかも、このクソ狭いスペース全体の配置が良くわかる、大きな見取り図がついている。
非常に親切だ。迷う心配が微塵も無い。小さな子供連れでも安心だ。
千歳空港からレンタカーを借りて旭山動物園へ、というプランなら、ここに寄ってみんなでお弁当、なんてどうだろうか。千歳からなら2時間半ほど。ちょうどいい。
はるかな大平原に抱かれながらのお弁当は、さぞやおいしいだろうと思う。
近所に弁当買えるコンビニ?そんなの無いよ。あるわけないじゃん。自分で用意しておきなさいよ。
旭川側から新城峠を下りると、程なく新城の集落に出る。このあたりで、最初の黄色い看板。
「右折・三本ナラ」これだけ書いてある。
このミステリアスさが、実にいいではないか。
ナラなら、このあたりではごくありふれた、というか森林構成の中で一番多い樹種だ。
それが三本あったところで、どうなんだ?・・・どうなんだ??・・・どうなんだろう!!!!思わず今すぐ行って見たくなるではないか!!!!
と、無理にテンションを上げないと、なかなか行く勇気の出ない道である。芦別側から全区間舗装で登れる道もあるのだが(下りはそこを降りたので)旭川側から最初に出た看板の道は、なかなかにすごい道である。
1台半分ぐらいの、農道特有の狭い舗装路から、看板どおりに進むうちに、舗装が切れる。急な砂利道の上り坂だ。その上、砂利道が複雑に交差しているのに、看板が非常にわかりにくい。
本当にこの道で合っているのか?向かいからトラクターが来たら、どう避ける?この砂利坂をバックで下れるのか?様々な言い知れぬ不安感。このスリルがたまらないではないか。
程なく、上りきる。とまた舗装がある。特に何も無い。
あれ?と思っているうちに、大きな看板と、砂利敷の駐車用らしきスペース。
どうやら、ここらしい。
新城仙台山の三本ナラ。推定樹齢440年以上。芦別市指定文化財、天然記念物。
幹周りは、最大のもので4mにも達する。確かに、大きい。北海道でも、これだけの古木が三本並んで残されている、というのは数少ないそうだ。
立派だ。立派だが、それでいて、威張らない。
美瑛の「セブンスターの木」のように、一人佇んだりはしない。周囲の屋敷林の名残?にもよく溶け込んでいる。
まあなんつーか。。。要は、地味だ。
早くも、徹底して誉める方針に限界を感じはじめてきた。
大抵の巨木には、霊験あらたかというか、何だかそんなような神秘性があるものだが。
こいつらには、あんまりそれを感じない。のんきな幼馴染のおじいちゃんトリオだとか、そんなようなかわいらしいキャッチフレーズをつけてあげたくなる。
ミズナラというのは、どんぐりがなる木だ。節くれだちやすく、幹が曲がりやすく、木肌にざらざらが多い、登りやすい木だ。
これは、こんな柵つけて天然記念物にするんじゃなくて、子供達に愛される木にしてあげたほうがいいんじゃなかろうか。校庭にこの木があったら、私なら絶対誰が一番上まで登れるか競争を始めたろう。
そんなことを考えながら、ふとあたりを見たら、
まさに、絶景。これは素晴らしい。写真には写っていないが、新城の集落もまるごと見渡せる。
やっぱりこの木は、登ってなんぼだろう。登ればもっと見晴らしがいいに決まってる。
といって、流石の私も天然記念物に登る勇気はなかったが。
怒られるで済まないのを覚悟できる、そこの怖いもの知らずなアナタ。ぜひ、ハンモック持参で来てみてください。
トム・ソーヤか、ハックルベリー・フィンか。とにかく狭苦しい日本にいるなんて気分を吹き飛ばせることだけは、請け合いです。そのかわり、命の保障は出来ませんが。
全面舗装の「いいほうの道」を通って三本ナラから降りてくると。道道旭川芦別線の信号の真向かいに、二つ目の黄色い看板。「右折5.1km・夫婦滝」が現れる。
さすが名所になりやすい滝だけあって、写真付き看板もある。なかなかに勇壮な姿だ。
これは期待できる。胸が高鳴る。
道もしっかりしている。ちゃんと中央線がある舗装道路だ。きっと、かなり整備された観光地に違いない。
という期待もつかの間。僅か1kmほどで、また砂利道。というより、田んぼの畦道。
滝があるだけあって、川があるから、畑ではなく田んぼだ。先ほどの仙台山は一面畑だったが。水田のある風景というのはやはりいいものである。
と思う間もなく、また1kmほど行くと、今度は、山。道は、完全な林道になる。
林道と言ってお分かり頂ける方は、どのぐらいいるのだろうか。
とにかく、狭い。しかも、ここの林道はかなり急峻な斜面にあるから、左は、山。右は、崖。一歩踏み外せば、死んじゃうんだよなあ。なんてかるーく考えてしまう。
こういう道では、おなじみの看板がある。そろそろ来るなあ、と思っていたら、やっぱり来た。
毎回思うが。
いったいどうやって注意しろ、というのだろう。
この狭い道だ。落ちてきたら、もう逃げようがないではないか。逃げたら、落石どころか崖の下へまっしぐらなのだ。
落石より、すれ違いのほうがよっぽど恐ろしい。行く手には観光名所があるのだ。いつ対向車が来るか。来たら逃げ場はないのだ。
この看板を立てるスペースがあったら、すれ違い用退避スペースにしてもらいたいんだが。
しかも、この看板の落石は、妙にかわいらしい。怒っているようで、やっぱりかわいらしい。
こんな落石が落ちてくるから、よく注意して、見つけたら連れて帰ってかわいがって下さい、ってことだろうか。それなら、話が通るが。
ブツブツ言いながらまだしばらく登る。いくつか、「林道につき、関係者以外立ち入り禁止」の交差点がある。
もういっそ、全部通行止めにしてくれればこんな道に来なかったのに。
早くも、帰りたくなりはじめている。
そんな時。今度は見慣れない看板があった。
・・・?
・・・????
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
崖、明らかに崩れてるじゃん!!!!!!!
応急処置しかして無いじゃん!!!!!!!
どうやって注意すんだよこれ!!!!!!!それこそ気をつけてたって崩れたら終わりだろうがよ!!!!!!!
芦別市さん。ちゃんと直せるその日まで、この道はお願いですから封鎖して下さい。
命がけでハンモックなんてふざけた僕が間違ってました。
命、大事です。こんなところで落としたくありません。
と、言いながら。せっかく来たんだから、と通っちゃうあたりが一人の気楽さである。誰かいたら、こうはいかない。
まあ、崩れやしないんだよ。きっと。ほんとに崩れるなら通行止めさ。
で、終点。滝見の広場である。
驚いたことに、二人も先客がいた。年のころは60前後ぐらいだろうか。中年のご夫婦であった。
やっぱり、さすが滝。展望駐車場・三本ナラと、その場には私一人しなかいなかった。実に三倍の集客力である。
期待に胸膨らませ、山側の駐車場に車を止めた。
さらさらと川の流れる音に混じり、耳慣れない鳥の声が聞こえる。深山に来たんだなあ、と実感する。
いよいよ、崖の下の、滝を
ちっちぇー。
あれか?ひょっとしてあれか?滝って。
ちっちぇー。とおー。
仕方ないから携帯カメラの限界までズームアップ。
ちっちぇー。
やっぱちっちぇー。
命がけの思いはなんだったのだろう。落差3mほど?だろうか。滝と言うよりは渓流の岩場、って感じだ。
そもそも、遠い。遠すぎる。
近くには降りられないんだろうが・・・
命がけで来る場所では、無い。
誉める方針?知るか。こちとら命がかかってんだ命が。
芦別には、有名な滝が二つある。
北の国からのロケ地になった、国道452号沿いの三段滝と。国道38号沿い、滝里ダムのやや下流にある、空知大滝と。
それらを巡って、あら滝?と、ついふらふら夫婦滝を目指したくなったアナタ。
悪いことは言いません。すぐに、舗装のあるうちに、引き返してください。
こんな滝なら、山ん中にいくらでもあります。
死にたいですか?死にたくなければ、引き返して下さい。
2箇所。期待外れが続いて。
残る黄看板は、あと一つ。
もはや、期待する気力は無い。
一つぐらいいいところ見せてくれ。もはや、祈るような気持ちである。
カムイコタンを渡る古代アイヌの人たちの気持ちが、少しわかったような気がした。
とはいえ。次は、実は黄看板名所の中では、本命である。
出た。これだ。「左折・樹齢1700年 日本百名木 黄金水松」
水松というのは、イチイの木のことだ。生垣によく使われる、あのイチイである。北海道ではオンコと言う。
むかしむかし。まだ日本に「日本」という名前が無かった頃。高官の持つ笏(しゃく)にこの木が使われたんだそうな。イチイは、貴族の位の「一位」なのだ。神聖な木なのである。
それが、樹齢1700年。1700年前といったら、卑弥呼の時代である。
そんな頃から立っている木。無理やりに気持ちを奮い立たせる。
道も、ずっと中央線がひいてある舗装路だ。中央線があるだけで感動しているなんてどんな田舎モノなんだ、と思うが。行きがかり上、仕方が無い。
なかなかの峠道だ。右へ左へ、カーブが折り重なる。自然にアクセルに力が入る。
ぐん、ぐん、と上り、上りきった
あれ?今のか?
上りきってすぐのところ、私から見て左手後方に、木に隠れて駐車場やら看板やら、トイレらしき木造の建物やらがあった。通り過ぎてしまったらしい。
これは間違いなく、ほとんどの人が見落とすだろう。
なんでちゃんとやらないんだ、芦別市。頂上手前のカーブのところに、曲がってすぐとか何とか看板つければいいだけだろうが。
ぶつくさ言いながら、狭い道で無理やり切り返してUターン。もう、すっかり観光親善大使などではない。ただの毒舌な仕事帰りの通りすがりである。
駐車場に車を停める。
静かな、森の中といった感じだ。
問題の木は、どこだ?皆目見当もつかない。歩道すらないから、見つけようが無い。
何でここに見取り図がないんじゃいボケ、あのクソ狭い新城峠になんぞつけよってからに。すっとこどっこいが。
もはや、どこの地方の人なのかもわからない。とにかく、不機嫌極まっていた。
だが。だが。
最後に、やってくれた。そんな不機嫌は、全てぶっとんだ。
これは、掛け値なしに、すごい。
写真ではいまいち、その「ありえない太さ・デカさ」が伝わらないかもしれない。
これだけは、実際に見てもらいたい。その凄さを体感してもらいたい。
1700年、絶えることなく生き続けた、命がある。今年も、若々しい新芽を枝先一杯につけていた。
屋久杉だとか、暖かい南方なら長寿の木は珍しくないだろうが。
ここは、北海道だ。半年を越える長い冬、-30℃の冬も、青々と緑の葉を茂らせて。1700回も超えて生き続けてきたこの黄金水松。
これは、納得の天然記念物だ。触るのも畏れ多い。ハンモックなどもってのほかである。
霊験というより、それを超えた何か。
命のみなもとを揺すぶられるような、そんな思いがした。
大樹から少し離れた、見晴らしのいいところに、ここにも東屋が建てられていた。
テーブルの下に、一冊のノート。毎月取替えに来るらしく、6月に入ってからの書き込みがいくつか残されていた。
「今年も来ましたよ。
元気そうで安心しました。
私も、今年も元気に生きていけそうです。」
やはり、感じるものは、同じらしい。
毎年見に来させる力が、この樹にはある。
この木がある限り、芦別は大丈夫。かも知れない。
少なくとも、気まぐれでワガママな観光親善大使が何人いるか、なんてことよりも、この木一本あることのほうが、芦別にとってはよっぽど重要である。
長生きしてくれればいい。
私も。私のことを知る人も。みんないなくなっても。
この木がいてくれれば、それでいい。
さて。いよいよ、本題である。しかし、時刻は既に4時半。あまり時間が無い。
6時までには夕張まで抜けたい。山は、暮れるのが早い。今のこの疲れ切った体調で、暗くなると、危ない。
黄金水松からは、裏道でカナディアンワールドまで抜けられるようだった。
地図を見る気力も無かったが、青看板にちゃんと書いてあった。
ご存知と思うが。道路の青看板というのは、公的資金で建てられる、生活に欠かせない情報が書かれる道標である。市役所や駅が載ることはよくあるが、一介の観光地が載る、というのは、滅多に無い。
民営だった頃からあるのか、市営公園になってからなのか。わからないが。
カナディアンワールドは、それだけみんなの思いを背負った施設だったのである。
以前は裏口だったところが、車用正面玄関になっていた。
車用。そう、敷地内に車でそのまま乗り入れることができるようになっていた。
以前では考えられないことだ。馬車が優雅に丘を駆け回り、それに乗って園内を巡るのが楽しみだったのに。
上から見た景色は、何も変わっていないようで。やはり違った。
時が、止まっていた。夕張の旧炭鉱町に行くと、こういう気分になることがある。
ここもまた。そのまま取り残されてゆくのだろう。
ポツポツとでも、人が来ていることだけが、救いだ。
ここに誰もいなかったら。やりきれない。
広場まで降りる。何も変わっていない。
あのメリーゴーランドに乗りたいって、妹がゴネてたっけ。
子供というのは、意外に本物に敏感なものだ。こういう「いいもの」には、極めて鋭く反応する。
いい施設なんだ。有料での開園が終了して、既に10年。若干色は褪せたが、まだまだ、いい施設だと思う。
グリュック王国もそうだが、本当にいい建物が建っている。公園もよく出来ている。身の丈には合っていなかったかもしれないが、富良野や美瑛によくある軽薄な観光地とは一線を画す。北の京なんて、比べるのもおこがましい。
どうして。
わかっていても、言いたくなる。
どうして。
せめて何とか、地域のみんなに愛される公園として。冷やかしの観光客が気まぐれに立ち寄る場所でなく、常盤公園のように。みんなに愛される公園にできないものか。
朽ち果てた線路の枕木を見つめながら、そんなことばかり考えていた。
下のほうから、轟音と唸り声が聞こえた。
所謂ビジュアル系バンドのような、メタル系の爆音である。
帰ってから、調べてみた。
芦別カーリートレイン
カナディアンワールド
全道インディーズフェスティバル
勝手に出やがれ! Volume.17
というのを、やっていたらしい。
わかってる。金が必要なのは、わかってる。
人が少しでも入ることが重要なのは、わかってる。
でもやっぱり、カナダの田舎町に、メタルやハードコアは似合わない。
ハイジ牧場のカントリーな場内放送もどうかと思うが。ズレ加減はそれ以上だろう。
フォークジャンボリーを岩見沢から奪ってくる、ぐらいのことは出来ないのか。
オフィス・キューはなぜ夕張だけなんだ。結局売名行為じゃないのか。
この場所を生かそうという努力は、誰がしているんだ。
ハコモノ行政と文句だけ言うのは勝手だ。出来たものを、宝にもゴミにもなるものを、宝として生かそうという努力は誰がするんだ。
何だかやりきれない思いだけが溜まってきた。
時間だ。山を二つ、越えなければならない。
また来るぞ。芦別。
頑張れよ。芦別。
潰れんじゃねえぞ。
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