上から読んでも下から読んでも八百屋です。 ~26~
~特別シリーズ・信頼できる野菜・できない野菜 その1~
このシリーズは、主に担当者の目線から「青果担当という仕事」について比重を置いて書いてきました。
スーパーの関係者や、その仕事に興味のある人向けに書いたつもりで、誰でも日常に役立てられるようなものではないと思います。
もし、できるだけ多くの人に興味を持たれるものにしよう、と思ったら。やはり一番書くべきなのは「おいしい野菜・果物の見分け方」、特にその鮮度の部分でしょう。よくわからないから教えて、という人も多いと思います。
シリーズ中何回か書いてきましたが、わかったようでわかっていない部分がどうしても残る、何十年やってきた担当者であっても絶対にわかる、とは言わないのが鮮度や味の部分です。
全部かじってから並べられたなら流石にわかる日が来るでしょうが、店では見る・触る・嗅ぐ、その程度しか判別の方法が無いのですから、当然と言えば当然かもしれません。
特に私には、青果担当としては3年半ほどの経験しかありません。しかも今はリタイヤした身分です。そんな私が、日夜青果と格闘しておられる諸先輩・現役の方々を差し置いて、鮮度についてあれやこれや言うのは僭越に過ぎるのではないか、という思いがあります。だから、多くの人に興味がある部分だろうことはわかっていながら、避けていたのです。
しかし今年。年明けの納豆騒動に始まり、不二家の件があり、それに隠れるようにボロボロ出てきたファミレス・ファーストフードのずさんな管理が明らかになり。さらにミートホープの件があり、つい最近は白い恋人と。食品に関して消費者に与えられている情報が、どれだけいい加減なものかが次々に明るみに出てきました。
消費者にとってわからないことは、いい加減でもいいや、と。いう企業がこれだけあったということに驚くと同時に、同じ食品のことを扱ったものとして、このシリーズの姿勢についても少し考えさせられていたところでした。
シリーズ中にも書きましたが、青果には日付がありません。扱っているのが生き物ですから、いつ腐るかは気分次第とでも言うしかないからです。
いつ収穫したものかの履歴を辿れる、トレーサビリティ強化の動きも一部ではありますが、まだまだ本格的なものにはなっていかないでしょう。仮にそれが徹底されたとしても、2週間もつか2時間で腐るかは神のみぞ知る、という部分がどうしても残りますから、「いつ収穫したか」にだけ拘ってしまうのもどうかと思います。
でもお客さんにすれば、そこに不信のタネがあることになります。わからないのをいいことに適当な商品を並べているんじゃないか、と言われたら、そんなことはありませんと言うことは出来ても証明することが出来ません。現に、毎日大なり小なりクレームも来るのですから。
となると。お客さんに変なものをつかませないために私が出来ること、というのは、しっかり見極めることが出来るようになってもらう。これしかありません。担当者でも気付かない腐れはいつでも起こり得ます。自分で買うものは自分でしっかりチェックするしかないのです。
青果の目利きとしては半人前もいいところで終わってしまった私ですが。それでも一般の人には無いような、簡単に見分けられる鮮度基準・品質基準のようなものを持っています。今でも、いい野菜を見分けさせたらそこらへんのおばちゃんには負けない自負があります。
であれば、やはりそれは提供しておくべきではないか。多少なりとも青果を販売する側に対する不信を除けるのなら、この業界にお世話になったことに対する恩返しにもなるんじゃないか。そんなふうに考えるようになったのです。
ここから何回か、「いい野菜・果物の見分け方」に絞って紹介していこうと思います。
さて。それではどうやっていい野菜・悪い野菜を見極めるか。
最も簡単かつ確実なのは。近くにいる担当者に聞く・選ばせることです。
さっき自分で選ぶしかない、と言ったばかりなのに矛盾してるじゃないか、と思われるかもしれませんが。自分より確実に詳しい人がそばにいるなら、当然聞くほうがいいでしょう。その人を信頼して任せるのだって、立派な自分の判断です。風邪を引いたら医者。裁判するなら弁護士。餅は餅屋、野菜は八百屋というわけです。
ただし。医者や弁護士が必ずしも全員信頼できるとは限らないように、八百屋にも信頼できない奴が必ずいます。それは見分けなければなりません。
まず、「どれでも新鮮ですよ!今日入ったばっかりですから。どれでもおいしいですよ!」なんて快活に言ってのける担当者。これは絶対に信用してはいけません。
素人目には同じように見えたって、プロには必ず良し悪しがあることがわかっています。そして、青果の売り場というのは必ずできるだけイマイチなものから順に買っていってもらうように並んでいます。
「良いもの」というのは誰でも欲しがるばかりでなく、一般に日持ちがします。イマイチなものはさっさと買ってもらえないと、売場で余しに余されて腐るまでずっと残ってしまいます。だから、出来るだけ良いものが後に売れるよう並べるのです。牛乳や納豆は必ず日付の残りが短い順に並んでいるでしょう?青果担当者はそれと同じことをさらに細かい次元でやっているのです。
これはずるいとかずるくない以前に、いいものも悪いものもごったまぜに入ってくる青果の性質上、そうするしかないことなのです。
良いものだけ並べる、悪いものは並べない。そうできればそれに越したことは無いでしょうが、それをやり出したら際限なく価格が釣り上がります。お客さんが誰も買わない、というレベルまで悪いものでなければ返品はききませんから、その分のロスは全部商品価格に乗っかるからです。そういう高級青果店があったっていいでしょうが、全部それでやっていたら確実に誰も生野菜を買わなくなります。
自分でそうしてイマイチなものを先出しで並べておきながら、「どれでもいいよ」なんて言ってしまう担当者は全く信頼に足りない、と私は思います。せめて聞いてきたお客さんにぐらい誠実に「これがいいです」と言うべきだろうと思います。
中には、「これがいいかな」なんて言って明らかに他のものより劣化したものを渡す担当者も存在します。腐っていなければクレームはつけられまい、だったら悪いのから売れ、と真顔で私に言った副店長もいたのです。
そういう奴はやたらに「ここがこうだからこれがいい」云々と講釈をたれます。詐欺師というのはいつでものべつまくなしにまくしたてるものです。くそ忙しい夕方のピーク帯の買い物でも平気な顔でべたべた喋りまくる担当者。これも信用できません。
逆に、いい例。「どれがいいか」と聞いた時に「どんなのが好きですか?」とか「何の料理に使うんですか?」とか聞き返してくる担当者。これは大体の場合信用できます。探すヒントを得ようとしているからです。
もう一つ。どれがいいか選ぶ時の目や手の動きをよく見て下さい。本当に悪いものをつかませないようにしよう、と思っていたら、ざっと見でこれがいい、という見当がついてからもう一度詳細にチェックをするはずです。よほどのことが無い限り、と思ってもよほどのことが結構あるのを担当者は知っています。よほどが無いように念には念を押す担当者。これは信用できると思います。
ここまでクリアしたら、さらに後押しで「何日ぐらいもちますか?」と聞いてみて下さい。そこで返事につまるようなら、あまり信用できません。いつ腐るかわからないとは言っても、日常的に野菜を腐らせている担当者には大体の目安として何日ぐらい、というのはわかっているものです。そこで答えにつまるのは今にも怪しい物件だから、という場合が多いのです。どんなにいいものでも日持ちしない、というものなら臆せずすぐ「お早めに」と言えるはずです。
もっとも、これらの質問にはシリーズで紹介した「新人の三治君(仮名)」のような明らかに能力そのものが足りない担当者には当然答えることが出来ません。どんなに誠実な人柄でも、能力が無いんですから。仕方ありません。
能力の足りない担当者を見分けるのは、簡単です。聞いた瞬間の顔。「ひぇ」とか「うげ」とか「ちょ、おま」とか、一発で顔に出ます。人間、わからないことを聞かれる、しかも立場上答えなければいけない、という時ほど困った顔になるときはありません。
うまく信頼できる担当者の店がみつかった人は、幸運かもしれません。実際にはほとんどいないと思います。
その原因は、何よりも忙しすぎるからです。ピーク帯の青果担当というのは、シリーズで見て頂いたとおりてんてこまいなのです。聞かれたら面倒なんです。何も騙すつもりが無くても、「どれでも自信をもってますよ!」とか言いたいところなのです。30秒、1分、ひとりのお客さんにはなんて事無い時間でも、毎日何千人のお客さんの相手をしている担当者にはどうしても欲しい時間なのです。
私も、できるだけ「顔の見えたお客さん」を大事に、と心がけてはいましたが、あと10分で発注送信しなければ明日何も入らない、となったら流石に話が別になります。その「たまたまの一回」が、そのお客さんの印象のほとんどを決定する、とわかってはいても、です。
だから、信頼できる受け答えをしてくれた担当者は、大事にしてあげて下さい。その人なら間違いありません。恐らく、売場の商品もいいものばかりが並んでいることでしょうから、ぜひ贔屓の店にしてあげて下さい。損することは無いと思います。
次回からは、具体的に単品別の見極め方をお話したいと思います。
若輩者の言う事ですので、「そこは違う!」という先輩や詳しい方からのツッコミ、大歓迎です。
結果的に青果を買う人がおいしい思いができる、そんなものになればいいなと思っています。
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