2006-08-17

エースの苦悩

辻内をはじめ、140k台を投げる投手がごろごろいた昨年に比べ、今大会の投手陣は小粒と言われる。
それが準々決勝第一試合で早くも大会のホームラン数記録が破られることに繋がっているのだろう。
そんな中で、前評判では図抜けていたエースが一人いた。
駒大苫小牧・田中将大である。

田中は、昨年2連覇を果たした時の優勝投手でもあった。
決勝戦、ラストバッターから三つ目の空振りを奪ったストレートは、150kを記録した。
その後の神宮大会でも怪腕を唸らせ、この世代の強豪高はこぞって「ストップ・田中」を目標に掲げた。

苫小牧で以前働いていて、今もたまに行く機会がある私には、駒苫の選手は非常に身近な存在だ。
昨年のエース・松橋は、私の車の目の前をぼんやりしながら信号無視で渡っていったし、やはり昨年のキャプテン・林は、田舎ヤンキーのような出で立ちでカラオケ屋に入っていった。
某番組ではスター扱いの彼らは、当然ながら普段は普通の高校生と何ら変わらない。
田中に会ったことは残念ながら無いが。彼とて同じであろう。

春の全道大会では全試合で田中以外の投手を先発させ、それでも優勝した駒苫であったが。2番手投手はなかなか育たなかった。
絶対的なエースがいるチームで、2番手を育てるのは容易ではない。
越えられない存在を前に、投手という生き物は卑屈になる。自己を認められない。自信を持って投げてこない投手は、恐くない。
先輩に囲まれ、仲間を信じ。気持ちで投げ勝った田中の姿は、いつしか失われていた。
夏の予選をほぼ一人で投げ抜いた田中だったが。表情には疲れが滲むようになった。

甲子園。緒戦。明らかな変調だった。腕の振りが小さい。打たれないように。打たれないように。ストライクが入らない。
エースは、仲間を信じることを忘れ、フォームを崩していた。
大逆転を演じた3回戦。やはりまだ、本来の球威が戻らない。
準々決勝。やはりリードを奪われ、4点目はエラーで奪われる。打線も三者凡退の山を築いた。
しかし、田中は俯かなかった。苦しみながら、前を向いて投げ続けた。
6回。四球をきっかけに。仲間がようやく応える。同点。
ここで、この大会初めて、田中の真っすぐが伸び始めた。唸りをあげる直球さえ戻れば、打たれる投手ではない。
野球は、一人では勝てない。それは、チームの勝敗だけでなく。自分との勝負についても言えることなのだ。

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