2007-02-28

上から読んでも下から読んでも八百屋です。 ~4~

~3.複数のミッションを同時遂行せよ!青果担当の昼の作業~

次から次へと迫り来る時間との戦いを乗り越え11時頃、ようやく売場が一定量埋まってホッと一息ついた新人の三治君(仮名)。最後に、売場のチェックをしながらバックヤードへ戻ります。
この最終確認は、非常に重要です。人間というのは、忙しい時ほどミスをするものです。
・POPの表示価格が、朝の売価変更した価格と違っていないか。
・朝の仕入れ伝票の原価は、今の売価で利益がとれるものだったか。
(安すぎれば開店後でも売価変更しなければいけません。)
・POPの産地表示は並んでいる商品と合っているか。
(数年前の加工肉の産地偽装問題をきっかけに、全ての生鮮食品には産地表示が義務付けられました。青果の場合、輸入商材は産国名、国産のものは都道府県レベルでの産地表示をしなければなりません。間違っていると、厚生労働省から是正勧告が入ります。と言っても、既に制度開始から5年ほど経っているのに、ルーズな店はルーズなままですが・・・)
新人の三治君(仮名)は、とにかくミスだけはするなと先輩に固く言われていますから、指差し確認ぐらいの慎重さで入念に時間をかけてチェックし、バックヤードへ帰りました。
その途端。物凄い罵声の海に三治君(仮名)は包まれます。
「ちょっと、いつまで売場で油売ってたのさ!」
「次の仕込みはどうすればいいの?」
「やること無いのかい?無いなら帰るよ!」
いつの時代も、中年の女性の団体ほど、うら若き男性を悩ませるものはありません。店の規模によっても違いますが、大体どの店の青果も毎日3~10人ぐらいのパートさんを使っているのです。新人の場合、10年以上の経験があり、しかも親子ほど年齢が違うパートさんを御すのは非常に大変です。
へどもどしながらも、指揮をとる人間として威厳を示さなければなりません。
「あるよあるある!いっぱい仕込み指示書いてやるから覚悟してよ!」

青果で言う『仕込み』は、例えば料理で言う仕込み、つまり下ごしらえとは全く違います。
前項で紹介したキャベツや大根の小分け品、トマトの2個~4個詰のような、ラップをかけたパック品、きゅうりやナスの袋詰、これらのように、商品を売場に並べるために必要な作業のことを仕込み』と言っています。
店での作業効率改善と、それによるパート削減のため、更にはゴミ有料化の流れの中で、家庭でのゴミ削減のため、店での仕込み作業というのは減らされる傾向にあります。
10年前、トマトの売り方といえば2個で『フルーツケース』と呼ばれる透明なプラスチックのトレーに入れてラップをかける、通称『2個パック』を店で作って売るのが基本でした。
しかし現在は、特に大手スーパーでは『産地パック』と呼ばれる農協や生産者が袋詰して出荷する商品や、仲卸業者や配送センターでまとめてパックして納品する『セントラルパック』の商品、産地で箱詰めしてそのままの『バラ原料』も、1個ずつ裸でそのまま売る『バラ売り』、もしくは箱のまま売る『箱売り』が中心になっています。店で『提供単位』を変える場合も、裸のままフルーツケースに盛ってレジで回収したりと、とかく手のかからない方法が模索されます。
この販売形態の変化は、単価の値ごろ感や消費動向も要因として挙げられますが、効率改善もまた主要な要因の一つとなっています。

さて。新人の三治君(仮名)は、胸ポケットからボールペン、品出しの台車からメモ紙を取り出し、何やら書きなぐり始めました。


・トマト  24玉 4コポリ     5ケース
・きゅうり  M 3本パック    3ケース
・きゅうり  S 5本1830ポリ   10ケース
・サンふじ 46玉 10個1号ガゼット 10ケース
・アスパラ    3本束      2ケース


品名以外は何やら暗号のようですが。大体こんなような『指示書』を、担当者は作成します。そして、作業台の棚あたりにペタッとセロテープで貼り、コレに従って作業しろとパートさんに言うわけです。
この指示の出し方は担当者によって物凄く違います。ただ、確実に言える共通点は、必ず、指示は何かに書くということです。
パートさんたちは、朝から延々とひたすら単純作業をしています。単純作業をやっている時ほど、耳から入った情報を忘れやすい時はありません。
考えてみて下さい。一枚二枚と100枚近くある紙の枚数を数えている時に、誰かに話しかけられたら。誰だって「うるさいだまれ」と思うでしょう。
同じことが、仕込み中のパートさんにも言えます。口で言ったって覚えられるものじゃないんです。一人に次やることだけを言うなら出来るかもしれませんが、それを全員の作業が終わるたびにやろうとしたら非常に効率が悪い。新人に出来ることではありません。
だから、作業に『優先順位』をつけて、売場が回るように全員分まとめて指示を書き。誰かが終わり次第、順繰りに指示を遂行できるような指示書が、最初の基本になります。
では、その指示書の解読ですが。
まだまだ時間の無い担当者ですから、字を書く時間すらできるだけ節約したいので、最大限簡素化しています。
品名の次の項。トマトの「24玉」、きゅうりの「S」、「M」、サンふじの「46玉」というのは、サイズの表示です。
入荷してくる商品は、バラの状態で箱詰めになったものがほとんどです。トマトならトマト、きゅうりならきゅうりで、同じ品物はどこの産地のものもどんなサイズのものも、大体似たような形と重量の箱詰めで入荷します。
イメージしやすいのは、年末のみかんの箱売りでしょうか。各店でいろんなみかんを売っていますが、だいたいみんな10kgの同じような箱に入っていると思います。3kgや5kg、7.5kgの箱を置いている店もありますが、それは小売側の要望で、単価合わせに用意してもらっているサイズです。基本は、統一規格でもあるかのように10kgの、ほとんど同じ形・大きさの箱で入荷しています。
特に同じ産地のトマトが、いろんな玉のサイズで入ってきた、というような場合。発注と売場計画に関わっていないパートさんには、どのトマトがどう売るものなのかわかりません。書いてあげないと、倉庫から目的の品を選び出すことができないのです。
「24玉」というのが、トマトのサイズです。これは、4kg標準のトマト箱に24玉詰められるサイズですよ、という意味になります。多くの農協では24玉は「M」と表記しているのですが、何故か箱へのこの表記は農協によってまちまちです。24玉、としか書いていない農協もあり、この場合それだったのでしょう。
各農協には、箱のサイズなんかどうでもいいから、中身のサイズ基準をしっかり統一してもらいたいのですが。何らかの理由で出来ないみたいです。
担当者は、各商品ごとに何玉はL、何玉がSS、Sのみかんは一箱に大体110個ぐらい入ってる、とか把握しているのですが。パートさんにそれがわかるはずはないし、そこまで考えさせると作業の出来上がりが遅くなるので、一番わかりやすい形=箱の表記、で指示するわけです。
一つだけ、アスパラにはこのサイズの記述がありません。これは、アスパラのバラ原料が倉庫に一種類しか無い、迷いようが無いということを意味しています。
店で売っているアスパラは、何本かでテープで巻いた束になっているものが多いと思います。あのテープ巻きの作業は、国産のもののほとんどは産地でやってくれていますが、輸入物はバラで、25ポンド(約11.3kg)の木箱で入荷し、それを店でテープ巻きすることが多くなっています。
つまり、「アスパラ 3本束」と言えば、木箱のアスパラを3本の束にすること、という暗黙の了解が出来ているわけです。
指示書はできるだけ簡潔にしたいですから、書かなくてもわかることは書きません。だから、アスパラにはサイズ表記が無いのです。
その次の項は、出来上がりの形態の指示になります。
「ポリ」というのはポリ袋詰、「パック」というのはラップをかける、という意味です。「4コポリ」といえば4個でポリ袋に詰めなさい、ということになります。
怪しげなのは、きゅうりSの「1830ポリ」と、サンふじの「1号ガゼット」です。これは、実は使う資材の種類まで含めた指示なのです。
いつもよく仕込んでいる商品なら、トマトの4個ならこれ、きゅうり5本ならこれ、と、その場合に使う資材はだいたい決まっています。その資材については、自分ではあまり仕込みをしない担当者よりパートさんの方が詳しいぐらいです。だから、使う資材までは普通指示しません。
しかし、たまに「この資材を使ってくれ」という指示が必要になる場合があります。一つは、その形態がたまにしか作らない類のものの場合。もう一つは、いつも使っている資材で何らかの不具合がある場合です。
サンふじの場合は、恐らく前者です。「1号ガゼット」という、持ち手がついてマチがある資材は、この店のパートさんには馴染みが無いものだったのでしょう。
きゅうりの場合は、後者と思われます。きゅうり5本というのはごく一般的な『提供単位』で、使う袋も決まっているはずですが。きゅうりのサイズが普通ポリ詰しているものより大きかったり小さかったりすれば、その袋が使えない場合もあります。
これは本来やってみないとわからないことですが、例えば前日出ていて今日は休みのパートさんが、いつもの袋での仕込みに不具合を訴えていた、というような場合。毎日出ている担当者が、その情報の橋渡し役を担わなければなりません。だから、指示書で特定してあげるわけです。
もう一つ考えられる原因は、いつもの袋が在庫切れしている、ということです。
当然ながら、商品だけでなく資材も、注文して入荷しています。私のいたスーパーでは、無くなってきたら商品と一緒にPOSで発注していました。
しかし、無いと金にならない商品と違い、資材は他のものでもやりくりできるし、そもそも無いと金にならないものではありません。だから、担当者は実によく資材の発注を忘れます。
発注漏れをやらかした新人の三治君(仮名)は、売上げより自分の作業が円滑に進むのが大事なパートさんにどやされながら、使いにくい資材を指定したのかもしれません。
ちなみに「1830」というのは、前二桁が横幅、後二桁が縦幅(単位:cm)を指しています。1830なら横18cm×縦30cmの袋ですよ、というわけです。
スーパーの資材をほぼ専門に扱っている業者が何社かあるのですが、そのそれぞれでこうした4桁数字表記の慣習は統一されているようです。農協にも見習って欲しいものです。
最後の項は、仕込みを行う量です。これは原料の量で指定します。本当は売場作りの観点で言えば出来上がり量を指定したい所ですが、出来た数をいちいち数えていると作業が極めて遅くなるからです。
きゅうり5本ポリ10ケースやって、と言えば数えるのはきゅうりの本数と箱10ケースだけ、どんだけ出来たかは担当者数えてね、で終わりですが。
これをもし100袋作って、というと、出来た数を数えながら、かつ何箱持って来れば足りるのかもよくわからず、さらに腐っている箱があってもう一度持ってきなおしたり、と非常に面倒くさいことになります。

指示書一つとってもこのように、担当者は、とにかくパートさんに面倒くさい思いをさせないよう考えています。パートさんの力を最大限に発揮させれば、それだけ店に良い商品が並び、売上げにも繋がります。パートさんを遊ばせていれば、売上げが伸びないばかりでなく、その給料の分だけ利益を圧迫することになります。
かと言って、単純作業が中心とはいえ、パートさんは道具ではありません。決して報酬のためだけに働いているわけではなく、店が売れれば喜ぶし、店にとって良くないことには反感を持ちます。そして、自分の仕事に誇りを持って働いています。
パートさんの慣れとやる気を見極めながら少しずつ判断の一部を振ってあげると、それがやりがい・意欲を生み、パートさんも成長していくのです。
下につく人をどう生かせるかが、一番担当者の腕の違いが現れるところかもしれません。
自分の仕事でいっぱいいっぱいな新人の三治君(仮名)は、あっぷあっぷしながら自分のやりたいことを伝えるしかできません。彼より経験のあるパートさん達は、ハイハイと言いながら指示が無くなれば矢継ぎ早に要求してきます。どっちが育てられているんだかわかりませんね。

指示を出し終えた新人の三治君(仮名)ですが、ホッとしている暇はありません。11時を過ぎました。午前中の最初のピーク帯に突入しています。
経験のある担当者は、この時間の客の流れ、商品の無くなりかた(動きと言っています)を見れば、だいたいの一日の予測が出来ます。まとまった客数が来ているのに売れていない商品は一日中売れないし、この時間に客が入らない日は他店チラシ等の理由で客が入らない日なのです。
そして、1日の売上げから見ればまだ3割に満たない時間ですから、売り切らなければいけない商品の価格をいじったり、商品の展開を変更したりして、売上げと利益を伸ばすための修正をかけていきます。
新人の三治君(仮名)には、まだそんな能力はありません。でも、新人だろうが学生アルバイトだろうが誰にでもわかることがあります。売れている商品が、棚からどんどん無くなっていることです。
1玉100円の目玉品として、朝昨日売れた数だけ積んだキャベツですが、既に半分が無くなっていました。
一日の売上げのうち、3割以下しか売れないはずの時間までで、既に予測の半分売れたということは、5÷3で1.67倍ぐらい、当初予測より売れる可能性が高いということまで考える余裕も能力もまだ三治君(仮名)にはありませんが、とにかく何とかしなければいけません。
どうするか。決まっています。『補充』をするのです。午前中なら、朝のうちに一旦ピークとして積んだ量まで戻してやります。
当初の売上げ予測を1とすると、0.5売れた時にもう0.5積み直したのですから、積んだ量の総計は1.5になる。これは修正した予測数値1.67に近く、かつやや下回っていることで、午後予測より動かなかった場合の値引き・廃棄ロスリスクを考えれば妥当な陳列量だとか考える余裕も能力も無くても、「すごく売れているものはとにかく午前中はMAXまで積んだまま維持しろ」と言えばわかるわけです。
青果のベテランは、癖のあるパートさんを長年率い続けているため、最大効率を最小限の指示で実現する言い回しをよく知っています。一つ一つで精一杯な三治君(仮名)も、無理なく作業や指示ができる最低限度を教えられているわけです。
補充作業に追われ、仕込み指示が切れてはパートさんにどやされ、泣きそうになりながら駆け回るうちに、昼12時になります。
1日通しのパートさんは1時間の昼食休憩に入ります。担当者はまだです。パートさんを優先させるのは、上の人間として当たり前のことです。
午前午後の交代制なら、午前のパートさんはここでおしまい。午後のパートさんは1時からです。小規模店では、担当者がいれば午前しかパートは使わない、というところが多くなります。
うるさいのがいなくなって、ホッと・・・している暇は、やっぱりありません。午前の仕込みの進行状況と売れ行きの状況、さらにこの辺から明日の売場を想定して、それに向けた仕込み作業が必要になってきます。
きゅうりの5本ポリなら、慣れたパートさんでも10ケース(約100袋)作るのにだいたい30分ぐらいかかります。朝それをやっていたら、開店に間に合いません。チラシに「きゅうり5本150円」などと載っていたら、基本的にはその形態を作らないといけませんから、前日に仕込みをしなければならないわけです。
ここでも、「全て当日仕入れ」に無理な要素があることがわかります。さらに、当日仕入れにして、その朝大雪や台風でトラックが動かなかったら、チラシ商品が店に無い、ということになります。チラシに嘘のお買い得商品を並べて不当に客集めをした、とJAROにでも訴えられたらたまりませんから、セール品は基本的には掲載の前日までに入荷させています。
セール品の仕込みは、必ずやらなければならないとはいえ、今日売るものがなくなったらそれをまず作らないといけません。きゅうりは必ず必要ですが、今日中にできればいい、最悪の場合、明日の朝になってもしょうがない、とも言えるわけです。
仕込みだけでなく、青果の作業には常に『優先順位』がつきまといます。次から次へお客さんが来て、好き好きにモノを買いあさる中で、最大の売上げ・利益を目指していくための作業は実にたくさんあります。
いっぺんに全部は出来ませんから、重要な順番に作業を進めていく、作業による最大の効果を追求することが必要なのです。
今三治君(仮名)の売場には、朝20個並べたキャベツの1/2が、もう5個しかありません。朝並べた量の3/4が売れたことになります。パートさんはいませんから、出すなら自分で切ってパックして補充しなければなりません。
しかし、今出ているキャベツ1/2が、全て前日の玉売りの売れ残りだったとしたら。新しく切ったものは、それより明らかに鮮度がいい商品になります。
今新しく切って出したら、店頭にあるものは値引きして先に売らないといけません。夜まで売れ残ったら、1円にもならず廃棄の運命だからです。
出さなければ、購買意欲は落ちているでしょうが、値引きせずに売れるかもしれません。1玉売りの今日の目玉品のキャベツが隣に並んでいますから、キャベツ全体の目立ち具合は、1/2を出しても出さなくてもさほど変わらないかもしれないでしょう。
そんなことの判断を迫られている時に、生椎茸は売場の半分が売れてなくなっているし、傷みの早いいちごは朝並べたきりでその後鮮度チェックしていないし。パートさんが戻ってくる前に指示書は書かなければならないし。やったほうがいい、やらなければならない仕事は、開店中は常に同時に10指に余るほどあるのです。しかも、キャベツ1/2の例のように、常に複雑に絡み合った要素を考えなければいけません。
ちょっとだけ考えた三治君(仮名)は、迷っている時間ももったいないので、先輩に言われたように動くことにしました。
まずキャベツ1/2を3個だけ切ってパックし、それと一緒に補充する生椎茸を売場の1/4の量だけ台車に載せました。指示書はとりあえず午後来る人数分、3人が20分ぐらいで出来るところまで書きます。売場に生椎茸とキャベツを並べ、売れ残りの値引きは今はしません。そしてそのまま台車をガラガラ押していって、いちごの鮮度チェックを始めました。
その言われたこととは何だったか。それは、「迷ったら、片っ端から中途半端にやれ」です。
私が担当者として先輩に教わったことで、こんなに役に立った言葉は他にありません。
この一連の作業で、生椎茸は理想の75%まで売場が回復し、キャベツ1/2は3個切ったので6個の補充、売場の半分が新鮮ですが、まだ古い在庫も値引き無く売れる可能性が残ります。パートさんには来て20分間の間に継ぎ足しの指示を出せばいいし、いちごの鮮度という全部見ないと苦情に繋がる作業をする時間をたっぷり取れたわけです。
全部を100%にできる人は素晴らしい成果を生むかもしれませんが、やりだしたらキリがないこの『商売』という仕事に、そんな人がいるとは思えません。
生椎茸を100%まで回復しようとしていたら、並べているうちにキャベツ1/2が品切れして機会ロスを起こし、傷んだいちごがお客さんに渡って苦情処理に行かなければならないかもしれないのです。目的買いのお客さんへの機会ロスや、商品に対するクレームは、そのまま店の評判に直結します。
じゃあ生椎茸を放っておけば、となったら今度は陳列量による、見えない『衝動買いへの機会ロス』が起きています。この見えないロスも、非常に担当者には恐いものなのです。目的買いより衝動買いのほうが圧倒的に売上げが多いというのが、アンケートからわかっているからです。
全部中途半端にできる仕事からやっていけば、生椎茸の衝動買いのお客さんにはまず75点ぐらいでしょう。キャベツ1/2目的買いのお客さんは100点くれるかもしれないし、いちごの苦情という0点をつけられる心配もありません。
大勢のお客さんが来て、買っていくことを目指すスーパーでは、誰かに100点だけど誰かに0点の店よりも、みんなが合格点をくれる店を目指すのが重要なのです。
完璧主義者で、ひとつひとつキッチリこなしていくタイプの人には向きません。いい加減でガサツな私の成績がそこそこ良かったのは、そのいい加減な性格のおかげの部分もあると思います。

鮮度チェックまで終わるってバックヤードに戻ると、三治君(仮名)は、ふうとひとつ大きく溜め息をつきました。
そこには、カゴ車2台ほどズーンと商品が入荷していたのです。
私のいたスーパーでは、発注は前日発注でした。今日発注をしたら明日には入荷してくる、という方式です。
荷物の大半は、朝の『1便』で入荷します。でも、1便のトラックが集配センターを出るのは朝4~5時ごろです。市場のセリは朝7時から。どういうことかわかりますか?
実は、1便で入荷した品物は、相対契約でバイヤーから示された予測数量を元に発注より前に仲卸業者が確保していた在庫なんです。
店での在庫リスク、鮮度責任を軽減するため、今は大手チェーンのほとんどは前日発注のようです。しかし、それはそう古い話ではありません。私のいたスーパーでは、私が在籍中に前々日発注から切り替わったのです。発注について書くときにこの辺はまた詳述します。
どんなに優秀な仲卸業者でも、50店100店と店を抱えるチェーンの合計発注量を完璧に揃えておくことは至難の業です。在庫リスクは業者だって避けたいのです。
在庫だけでは足りなくて市場買いする商品、小物類等、扱い数量が少ないため注文が来る都度市場から買っている商品は、1便には乗せられません。
だから、そういう今日仕入れの商品を配送するための『2便』が必要になるのです。
市場・配送センター共に近い店ならセリが終われば1時間もしないで届きます。開店後すぐぐらいです。そういう店は大事な商品が1便で入らなくてもそんなに困らないので、在庫を思い切って減らせます。
私のいた店の2便到着は1時近くでしたから、そうはいきません。既に1日客数の4割近くが買い物を終えています。他店との比較で在庫が多い、減らせと上から詰められる度に、配送上物理的に解決できないことだ、という言い逃れに非常に便利でした。

既に1時過ぎ。朝から走り回っておなかもペコペコですが、荷物を下ろして検品はさっさとやらなければなりません。赤伝の締め切りは、配送が早い店に合わせて午後3時でした。廃棄にしかならないものに金を払わされてはたまりませんから、大急ぎです。
荷下ろし・検品が終わり、その間に売れたものを補充して、メシの間に切れないぐらいの指示書を書いて。
ようやく、メシです。でも、一人暮らしの三治君(仮名)に弁当を作ってくれる人はいません。店の惣菜コーナーで弁当を買うことになります。選んでいる暇はありません。できるだけ早く食い終われるというのが、最大の選考基準です。
無理やり流し込んだに近い昼食が終わり、禁煙のバックヤードで吸えないタバコを酸欠の金魚のように吸い込んで。
また走って三治君(仮名)は売場へ戻っていきました。

これはひどい、と思うかもしれませんが。
意外と当人、そんなにひどいと思ってません。とにかく必死だからです。
人間、目の前にやらなきゃならんことが山積みになればなるほど、視野が狭くなって人と較べてうーだへーだなどと言わなくなるものかもしれません。

テーマTOP | 次の記事

No comments:

↑ このブログがお楽しみ頂けたら押して下さい。ただの「拍手」です。