2007-03-16

上から読んでも下から読んでも八百屋です。 ~14~

~閑話休題・青果担当とホリエモン~
 
今日、ホリエモンこと堀江貴文被告に、東京地裁から懲役2年6ヶ月の実刑判決が下されました。
(参考:http://www.asahi.com/special/060116/
以前にも私は、このブログで彼について書いたことがあります。その時は書きませんでしたが、彼の手口には、私の青果担当としての考え方と合い通じる部分が少なからず、あります。
何も珍しいことをしたわけでもない、商売をやる人間なら誰でも思いつくような詐欺の手口で、よくあんな偉そうな顔ができるよな、というのが私の感想でした。
そしてまた、その詐欺師を時代のヒーローと担ぎ上げたマスメディアや細木数子、さらに自民党総裁だった小泉純一郎は、気付いているのかいないのか、気付いてやってるなら詐欺師だろうしいないなら馬○だろうし。どちらにせよロクなもんではないな、とも思っていました。
その後、例の記事を書いた後で、裏付けが欲しくなってネットをあちこち調べていたら、非常に詳しく分析したサイトを発見しました。

[山根治blog]『ホリエモンの錬金術』
http://consul.mz-style.com/subcatid/10

これを見るにつけ、やはり商売は何でも一緒なんだなあ、と。思ったものです。
 
株式の相場というのは、需要に従って価格が決まります。出回っている株数を欲しい人の数が上回れば、だんだん値段が上がるわけです。
ITバブル期に上場をしたホリエモンは、このバブリーな需要にうまく乗りました。IT系の新規上場なら何でも欲しがる、値が上がる、そんな相場動向ををうまく読み、株式を分割、つまり単価を下げたのです。
単価が下がると、手が出やすくなります。株価の上げ下げに応じたリスクが減るからです。いきなり何百万も買えないけど、ちょっとなら買ってみようか、そういう衝動的買い気分を煽ったわけです。
しかも、分割をした直後に一時的品薄を演出しています。欲しくなった所でモノがないと、余計欲しくなるのが人の常です。たまごっちの例を出すまでも無いでしょう。
出ている株の総額、企業の価値は一緒なのに、欲しいという人だけは増えている。それを生んだ単価のトリックは、青果担当者の発想とよく似ています。
そして、買収やら何やらと仕掛けをする直前になると、決まってこの分割を繰り返し、しまいには当初の36万倍だかまで。
ここまで単価が落ちると、1円の値動きが元手に非常に大きな影響を及ぼします。でも、特にまだ株を買っていない投資家からは、地道に上がっている、ぐらいにしか感じられないのではないでしょうか。
これはトマトのバラ売りと4個パックで例をあげたのと同じ心理状況です。トマト1個98円が100円になったって、買う側にしたら違いのうちにも入らないでしょうが。売る側が36万個売っていたら、72万円も違うのです。株のケタの世界ではとんでもない差でしょう。
ここについては詐欺ではないし、認められている分割をやっている以上、責められるべきことでは無い、かもしれませんが。
その前段で、より多くの買いを集めるためにホリエモンが行ったとして今回立件されたのは、粉飾決算と架空取引です。実際には出ていない利益を、自社株の売買利益という本業と関係ないものを当てはめて出たことにしたわけです。
これは完全な犯罪です。
そして、青果担当者にも似たようなことをやる人間がいます。
 
最近の果物には、『糖度』というものが表示されています。含有する糖の量を『糖度計』というペンライトぐらいの大きさの器具で測ったものです。甘さの目安になるとされ、参考にしているお客さんも多いと思いますが。
あれほど、アテにならない数値もありません。柿やリンゴ、いちごなんかでよく表示されていますが、それらは芯と皮のそばではまるで数値が違います。同じ製品として入ってきた個体間でも違います。2~3個計ったら全部全然違う、なんてことも珍しくありません。
なのに、糖度測定は一個だけ、しかもそのごく一部分です。
これぐらいいい加減なものなので、意図的に数字をいじる担当者が後を立ちません。糖度計を持っているお客さんはそうそういませんから、やりたい放題です。コレ在庫余ってるからコレが一番高いことにしようか、なんてな調子です。
私は、糖度表示が大嫌いでした。そういう風潮に我慢できなかったのです。できればやりたくないぐらいでしたが、よそがやっていてそれにより信頼を得ているなら、やらざるを得ません。
仕方なく、パートさんに必ず3個以上計ってもらい、平均を表示していましたが。それでも「私が計りました」と名前入りでハンコでも押して並べたいぐらいでした
お客さんに信頼される「数字」を、買いに直結する数字を出すには、それぐらいやらないといけないと思うのですが。野放し状態はよくないと思います。
 
粉飾決算といえば。もう一つ青果と深い関係があります。
同じ業界にいた人間として恥ずかしいことなのですが。実は、スーパーで定期的に行われている生鮮棚卸は、粉飾決算だらけなのです。
青果(に限らず小売はみんな一緒ですが)の棚卸で、メインになる粗利益額・粗利益率の算出は、以下の式によって行われます。
売上高−(仕入総額−在庫金額)=粗利益額
粗利益÷売上高=粗利益率

例えば、原価70円のキャベツを300個仕入れ、100円で200個売れて20000円になり、100個今在庫しています、という状況なら、
20000−(21000−7000)=6000(=粗利益額)
6000÷20000=0.3=30%(=粗利益率)

となります。
ロスがゼロなら、このようにかけた値掛けと粗利益率は一緒になります。仕入れた金額のうち、在庫になっている分はこれからお金に代わるものとして考慮から外して(仕入総額からマイナスして)粗利益を出す、そして売上げに占める粗利益の割合を考えるわけです。
もし、300個仕入れたキャベツのうち50個が腐り、これから売れるものが50個しかないとしたら、
20000−(21000−3500)=2500
2500÷20000=0.125=12.5%

となるわけです。捨てた50個のキャベツの分、つまり3500円分だけ粗利益が減った、それにより粗利益率も減少した、という関係がおわかり頂けるかと思います。
廃棄でなくても、値引きでも万引きでも、本来仕入れたものから出るはずだったのに出なかった利益、つまりロスの総額というのは、この方法で求めることが出来ます。
ただし、多くの店はこのキャベツのように、ゼロの在庫からスタートはしません。何がしか在庫を持っていて、そこに更に仕入れが上乗せされる形になります。
売上げの元になるものに、その間の仕入れだけでなくその前の期間からの繰り越しの在庫、『前期在庫』が加わるわけです。
なので、より正確には
売上高−(仕入総額+前期在庫金額−在庫金額)=粗利益

となるわけです。
 
青果というのは、非常にロスが多い商売です。理由は簡単、腐れるからです。そして、腐らせないために行う値引きもロスになります。
それを、いくら値引きした、いくら廃棄した、と数える作業は非常に大変です。売場から引き下げたものだけならまだしも、きゅうりの袋詰してたら6本腐ってただとか、ほうれん草の袋に黄色い葉っぱが混じってたから3袋からいいところだけとって2袋にした、だとか、細かいロスが多くとても数え切れません。
さらに、商品によって値掛けがまちまちです。値掛け5%で売れるだけ売っている販促商品もあれば、値掛け40%でその分を補填している利益商材もあります。そのバランスも確認しなければなりません。
定期的に棚卸をして確認をしないと、ロスと利益の状況が掴めないのです。
私のいた店では、週1回の自主棚卸と、2週に1回の正規の棚卸をやっていました。月1回のチェーンもある、と聞いたことがありますが、食品や雑貨のような半期に1回では全く把握できなくなるので、そこまで長いスパン設定は恐らく無いと思います。
何をやるかと言うと、現在の在庫を数え、その金額を計算する、というそれだけです。仕入総額と総売上はPOSが勝手に算出してくれます。在庫だけ確定できればいいわけです。
作業は単純労働ですが、だからこそこれがなかなか大変です。何個ずつ、と大体決まった数の箱入りになっている倉庫在庫はまだいいのですが、店頭の商品は一品一品数えるしかありません。
野菜をやっていた時は、前述の通り400近いSKU展開をしていましたから、その一種類づつ別の単価ごとに数えなければいけないわけです。どんなに慣れても、売場だけで1時間近くかかりました。
倉庫在庫は気温5℃の冷蔵庫にこもりきりで数えなければならないし、計算中はちゃんと利益が出ているかでドキドキするしで、棚卸の曜日は毎週、吐きそうなぐらい具合が悪くなって帰っていたものです。
 
担当者への予算は、前年を基準にした売上高と、もう一つ、毎月決まった粗利益率で設定されていました。私のいた店では、25%でした。
これを2%以上割り込むと、報告書と始末書を書かされ店長から延々と説教を聞かされ、それだけでなく査定にも響く、というぐらい厳しく要求されていました。
例の、年始に5%というバッケンレコードを記録した時などは、本部から直々にお偉いさんがきて詰められました。
そのあまりに理不尽な詰められ方に反発し、それからそのお偉いさんに睨まれ最終的には辞表を出す遠因にもなった、という余計な話は置いておくとしても、それぐらい厳しいものだったのです。
絶対に利益だけは落とせない。だから、担当者は不正をする。それが日常化していました。
具体的に、どうするか。というと。
まず、利益が出なかった場合ですが。POSに自動で記録される数字、売上げや仕入れは動かせません。スーパーハカーなら動かせるかもしれませんが、そんなスキルがあったら青果担当者なんかやってないでしょう。もっと儲かる仕事が出来ます。
どうするか。仕入れの数字を動かすことは出来ませんが、そこからマイナスするもの、つまり在庫の数字を動かすことはできます。数えているのは担当者ですから。
実際には無い商品を、棚卸用紙には「これだけある」と書き込み、在庫金額を水増しするのです。これを『架空在庫』と言います。
毎日扱っている担当者がやって1時間以上かかる在庫検算の作業を、わざわざ本部では確認しません。とはいえ全く無い玉ねぎを100ケースある、等とやると流石にすぐバレるので、主力商材に絞りこれが本当は100個しかないけど110個、これは200個だけど240個、と広く浅く水増ししていくのです。
他に、資材在庫を水増しするテもあります。資材も仕入れは立ちますが、売上げにならないし在庫金額も見た目ではわからないので、バレにくいのです。
週間売上げ500万の店で10万架空を計上すれば、2%粗利益率が上がります。当座の不都合を凌げるわけです。
もちろん、次週の利益はさらに辛くなります。無い在庫が10万ある、と言ってしまったのですから、前期在庫+10万の借金からスタートすることになります。在庫の10万ですから、粗利25%を取るには13万以上売上げを上乗せしなくてはならないことになります。
このリスクを背負っても、架空をやる担当者は後を立ちません。バレないからと20万・30万と架空を増やしてしまう担当者もいます。
それがもし、単店でなく全店だったら。100店でやったら単位が億になります。青果だけでなく肉・魚・惣菜と、ロスを出しやすい部門がみんなやっていたら。一人一人の額は小さくても、立派な粉飾決算になるのです。
では逆に、利益が出すぎた、私の店で言えば30%出た、というような場合は、どうするか。
そのまま言えば、褒められます。ただし、それだけです。予算不達成は査定で減点されましたが、査定自体が減点法でしたから加点というのはないのです。
超過達成したから金一封、というのは売上げ予算については一時期ありましたが、利益予算にはありませんでした。
出して当たり前で、たくさん出したって売り頃価格より高く売って売上げを落としてるかもしれない、いやほぼ間違いない、だから特にどうこうはしない、というのが私の店のスタンスでした。
出ても大していいこともない利益が、余るほど出た。担当者はどうするかと言うと、利益を隠すのです。先ほどの、無いものをあると言うのとは反対に、あるものを「無い」というのです。これを『隠し在庫』と言います。
これは、架空よりずっと簡単です。しかも、言い訳がききます。もしバレても、「いや、この在庫はもう日数も経ってるんで。売り切り品だからカネにならないと査定したんですよ。」と言い逃れればグウの値も出ません。実際には翌日また正価で売ってたって、真相を知るのは担当者だけですから。
そうやって隠し在庫を貯めこんでおけば、いざ利益が出なかった、という場合に貯金を引き出して対応できます
担当者にしてみれば、予算を落とすリスクだけがあり、超えてもリターンがないのですから、こうしたくなるのも無理はない、のかも、知れませんが。
会社にしてみれば、たまったものではありません。担当者が隠している分の利益というのは、書面上は横領されたのと変わりません。背徳行為です。実際には出ている利益が、無いのですから。
実際、赤字で融資ストップ寸前になったチェーンで、よくよく生鮮の隠し在庫を調べたら実は黒字だった、という、嘘のような本当の話もありました。架空か隠しか、で隠しに寄りがちになった結果でしょう。
 
かく言う私も、架空も隠しも経験があります。どちらも、マネージャーにのみ利益責任があった頃の話で、私が責任を負うようになってからは一切やりませんでしたが。言い訳できることではないと思っています。
ただ、言い訳でなく、意見として言いたいことは、やはりあります。
まず、粗利益率で予算を組むのは、絶対におかしい、ということです。
本来、店が求めるのは利益の「額」です。いくら儲かったか、だけが重要なのであって、「率」はその効率の目安に過ぎません。目安を予算として義務付けるから、おかしくなるのです。
考えてみて下さい。1000万売って粗利益率20%なら、粗利益額は200万です。800万売って粗利益率25%でもやはり200万です。効率がいいのは800万かも知れません。多く売れば人件費もかかりますから、まず間違いないでしょう。
でも、お客さんの立場になったら、どちらが良いのでしょうか?
200万多く売れたということは、それだけ多くのお客さんにモノを渡した、ということです。つまり、その200万は他の店では買い物しない200万です。800万の店より多くの支持を集めた、ということなのです。それは責められるべきことなのでしょうか?
また、予算を率で組まれたがために、多くの担当者は粗利益のコントロールを値掛けの感覚のみで行う癖がついてしまっています。つまり、架空が溜まったら値上げ、という感覚です。値段が上がれば数が売れなくなります。それだけ他の店に食われる、ということです。
売りを落とさず最大利益を追及するなら、まず真っ先にやるべきはロスの縮減なのですが。値段が上がればそれもできません。売場が回りにくくなり、むしろロスは増えるでしょう。それをカバーするために更なる値上げをし、またロスが増え・・・悪循環です。
そうやって苦しくなるスーパーはたくさんあります。
最悪、率で予算化するにしても、多く出たことも認めるべきです。
20%の翌月30%なら、トータル25%でトントンなのに。私のいた店の減点式査定では1ヶ月分マイナスです。だから、架空と隠しをうまく調整して毎月25%を、という担当者が出てきます。会社は何も得していないのに、正直者が馬鹿をみる仕組みは馬鹿げています。
 
ホリエモンからだいぶ話が遠のいてしまいましたが。
ライブドア問題の本質も、「急成長企業ライブドア、毎年の決算も順調で、しかもお手頃価格から取引可能!」なんて謳い文句に釣られて株価を上げた正直者が馬鹿をみた、ということでした。
価格変動が激しい株では難しいのかもしれませんが。分割分割で自社株を釣り上げ売り抜けるような方法が、認められていいはずは無いと思います。なんらかの規制が必要でしょう。
裁判所は、公判の最後に「被告のこれまですべての生き方を否定されたわけではない。この子のように勇気づけられた多くの人がいる。」と、手紙を紹介し付け加えたそうですが。
私は疑問です。
青果担当者は、数字のゴチャゴチャもやりますが、その仕事の一番の目的は「おいしいものを食べたお客さんの笑顔」です。
私は、仕事というのは人を笑顔にし、そのために頑張ることに対して対価をもらうこと、と思っています。
ホリエモンは、誰かを笑顔にしたのでしょうか?
自分だけは金と名誉(?)という対価が手に入ったかもしれませんが。それを奪われた相手が泣いていることには、気付いているのでしょうか。

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