2007-03-20

上から読んでも下から読んでも八百屋です。 ~16~

~14.ケンカしてなんぼ?青果担当とバイヤーの関係~
 
仲卸とのパイプが太く、本数も多くなっていった私ですが。通常の発注はやはり普通の店と同じく、オーダーブックに従いPOSを使っています。
そのPOSデータが仲卸に直接届き、店別振り分けに乗るわけですが。いちおうオーダーブックを介する限りにおいては、その間にもう一枚バイヤーが挟まっている形になります。
仲卸と担当者が極めてウェットな、義理と人情の世界なのに対し。この、同じ会社の社員であるバイヤーと担当者の関係というのは、非常にドライなものでした。
お互いの利害は同じ会社である以上、本来完全に一致しているのですが。バイヤーと担当者は名目上「上司と部下」であり、バイヤーは各店の担当者を指導する立場も担っています。
それでいて、バイヤーの弱みを部下である担当者が補わなければならない面もあり、さらにバイヤーもやったけど今は担当者、という立場の人もいたりして、ギスギスしてきやすい複雑な構造があるのです。
 
仲卸に電話するようになる前、私は赤伝クレーム等も全てバイヤーに報告していました。本来それが正しいスジなのです。仲卸と商売するのはバイヤーの仕事であって、担当者が関わるべきではないのですから。
しかし、バイヤーにしてみれば、クレームを言われてもそれは俺の責任じゃないよぐらいの気持ちでいます。バイヤーと仲卸が関わるのはほとんど相対契約のみであり、買い付けの責任、つまり品質に関わる責任は全て仲卸が持つことになっているからです。
クレームを受けてバイヤーが何をするかと言えば、店の状況を聞いて、それを仲卸に伝える。それだけです。そこに一切自分の意見だの助言だのは入りません。右から左。それで終わりなのです。
新人の中にはまるでトンチンカンなクレームを言ってくる奴もいて(私も新人の頃何度か言われましたが)それに対して指導して突っぱねることもありますが。ほとんどは単なる橋渡しです。
これはどう考えても、非常に面倒です。バイヤーは忙しいんです。店長会への説明用の資料作成だとか、産直品の産地視察だとか、競合店の売場分析だとか、本来の業務であるバイイング以外に山のように仕事を抱えています。
ほぼ毎日電話してくる私のような存在は、一生懸命やっているかわいい部下であると同時に、どうでもいいようなことまでいちいち言ってくる厄介ものでもあるのです。
言句の端々からその「めんどくせえ、こいつめんどくせえ」という気持ちを汲み取った私は、直接仲卸に電話するようになったわけです。
 
バイヤーを飛び越して仲卸とごにょごにょやっている担当者というのは、私以外にも何人もいました。
前項で示したように、単店チラシをうつ店は皆、仲卸から直接商品手配をかけています。地方の店であれば、チェーン全体として取引している市場より、地元の青果市場のほうが安かったりモノが良かったり、ということもあるので、オーダーブックより仲卸優先、という店もあります。
でもあまりやりすぎると、バイヤーにとっては面白くないことだったりもするようです。バイヤーだって、店の売上げを伸ばすために仕事をしています。それに明らかに歯向かっている奴はどうなんだ、という思いがあるのです。
特に、私が仲卸に出してもらうチラシ企画用の商品というのは、バイヤー推奨の商品よりも1~2つランクが落ちる商品が中心です。バイヤーからしたら、せっかくいい品物を選んで売ろうとしているのに、という思いがあったのでしょう。「そったらガサいもんをウチの看板で売るなよ」と、露骨に言われたこともありました。
多くは、気分的なイチャモンの域を出てきません。チラシしか見ていない、店の売場を見ていないんだから、当然といえば当然です。
 
「きゅうり(曲がり品)1本19円」、「きゅうり(正品)5本198円」と、同時にチラシに載せたことがあります。安いものと高いもの、価格の開きは2倍強です。その価格と表記を見れば、品質は伝わる、あとは買うお客さんの判断に委ねる、というのが私のスタイルだったのです。
この価格のつけ方について、チラシだけ見たバイヤーから横槍が入りました。曲がりが袋で正品がバラ、それが常識だろう、というのです。
バラで大量に売れるきゅうりというのは、レジの都合で一種類だけです。バーコードを貼れない裸売りのきゅうりは、レジで専用のメニューキーを押すので、2種類出してもレジで見分けがつかないからです。
バラ売り品というのは、1個マズかったらそれで終わりです。5本のうち1本マズイきゅうりなら、5本ポリならそのうち1本マズくても許してくれるでしょうが、1本しか買ってないその1本がマズかったらオシマイです。
きゅうりというのは、まっすぐに育ったものほどおいしい、という性質があります。水分や糖分が十分にあると、全ての細胞に栄養が行き渡ってまっすぐ育ちます。曲がっているということは、曲がった内側が何らかの理由で成長しなかった、成長のバランスが崩れた、ということであり、そこに苦味やエグ味が出ている場合があるのです。
だから、まっすぐな正品のきゅうりを1本売り、が業界の常識になっていましたが。でも、私はそれに完全には納得していませんでした。
まず、曲がっていても食味に影響があるものはごく一部です。皮の厚みが曲がりの内外で違うので気になる、という人もいますが、そういう人はそもそも曲がりは買わないでしょう。
大してきゅうりに興味が無い、ほぼ利用性のみの需要で安ければ買う、という人にとっては、どっちでも安いほうでいい、かもしれないのです。
そういう人への需要底辺を広げるためには、バラ売りで低単価を追求すべき、というのが私のセールコンセプトでした。1本19円というのは、その時期にはなかなか無いレベルの超目玉だったのです。
それを袋詰して、例えば5本95円とかにしてしまったら。目玉感は激減します。
そして、19円のバラがあれば、正品の、恐らく48円とか50円とかで売るバラは大して売れないことはわかりきっています。だから、どうしてもいいきゅうりを少しだけ欲しい、という人のために、正品は別に1本でパックしてバーコードを貼って並べる計画だったのです
この「きゅうり1本パック」というのはちょっと前まではごく当たり前だった商品形態で、今でもきゅうりが高い冬場を中心に、古くさいスーパーでよく見かけます。バラを売る気がなければラップがかかっていたほうが売場で日持ちするからです。
バラきゅうりは裸売り、という常識は、あくまで大量にバラを売る前提でのものです。売るものでなく品揃えなんだから、パックしてチョロチョロ置いとけばいいだろ、というのが私の感覚でした。1ケース(だいたい50本)作っておけばまず足りるだろう、と。実際の結果は予想通り、売れたのは20本ほどだけでした。
と、いうふうに展開する、と説明をすると、今度は単価が下がり過ぎないか、と言われました。曲がりの10本200円と正品1本40円なら、単価が確保できるんじゃないのか、というわけです。
きゅうり10本。大好きな人ならいいかもしれません。漬物するなら多くはない量です。でも、大好きな人じゃないと買わない量でしょう。ところで、曲がりと正品、おいしいのはどっちでしたっけ?大好きな人が欲しいのは、少しでもおいしいきゅうりと、安くてもどうでもいいきゅうり、どっちでしょうね?
そこまで言うと、流石に何も言い返して来なくなりました。相当ご機嫌斜めになったようで、じゃあまあやってみろ、ハイ頑張ります、それだけで電話は切れました。
 
この日曜日のきゅうりの売上げは凄まじいものでした。バラきゅうりは、実に3000本売れました。60ケースです。もし同じ量を10本袋で売ろうとしたら。300袋もの袋詰をしなければなりません。まずパート一人3時間かかりきりコースです。どこにそんな手間があるんでしょう?最安品は手をかけずに、私の方針は正解でした。
5本198円の正品も、しっかりと動きました。裸売りのバラはどうしても心理的に抵抗がある、という潔癖症気味のお客さんがいることを私は知っていました。そういうお客さんと、どうしても正品が欲しいお客さんのための、目玉でも何でもない利益商材のチラシ掲載は、結果として成功だった、と思います。
月曜日。手のひらを返したような電話がバイヤーからかかってきました。バイヤーは、店舗売上げにも責任を持っています。基本的には、どんな面白くない思いをしても売れれば万事おk、という、お気楽な人種がなるもののようです。
私も、それみたことか、と言えるような大ベテランではありませんから、謙虚にハイ、ハイ、と聞いていました。
しまいには、成功事例として紹介するから売場計画と写真、発注量、実売数、そこらへんまとめて送ってくれ、と、本来ならバイヤーの仕事を押し付けられてしまいましたが。ふうと溜め息ひとつついてハイハイとやりました。
 
思ったことをあらかじめ全部ぶつけてあったのが、この場合功を奏したようです。何も考えないで何となくやりました、だったら、下手したらチラシ企画も差し替えられたかもしれません。それぐらい、セール前のバイヤーの不機嫌はひどいものでした。
でも、バイヤーだってもとは担当者です。担当者がどんな想いを抱えて売場を考えているかは、伝わります。
自分で考えた売場には、自信を持つべきです。少なくとも、図面も見ずにチラシだけ見て邪推されているなら、きちんとした説明をすべきです。
バイヤーの声が神の声のように、ひいては社長の一声で方針が決まるようなチェーンも多くありますが。
お客さん一人一人を毎日見ている担当者のほうが、その人たちよりいい売場を作れるし、また作れなければならないと思います。

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