2007-05-31

背筋

私は、座っている時の姿勢が非常に悪い。
しかも、座っていながらにして、無意識に腰が動く癖がある。
カバーをかけてあるソファーなどに私が座ると、20分もすれば背もたれが全部落ちている。クッションを敷いた椅子なら、立つと確実にクッションが落ちるし、木の椅子の背もたれの藤編みの部分がいつの間にやら破れていたこともある。
考えてみれば、よほど小さい頃からそうだった。
学校の椅子で、背もたれにもたれかかって4本足の後ろ2本だけで座り、足をバタバタ遊んでいるうちにすっ転んで怒られる奴。どんなクラスにも一人はいたと思うが、それが私だ。1ヶ月に1回ぐらいのペースで倒していた。何度怒られても、懲りないのである。
学生のうちはそれでも怒られるだけで済むが。社会人になるとそうはいかない。
取引先に無様な姿を見せれば、生活に関わるのだ。
いくらかはマシになったつもりなのだが。やはり、長時間座っていると知らないうちにワイシャツの裾がズボンの背からはみ出ていたりする。動いているらしい。
足癖も悪い。自分のデスクに長い時間座っていると、知らないうちに左足を折り曲げて右足の膝の下に敷き、椅子との間に挟めている。デスクの高さ上、普通に脚が組めないので、いつの間にかそうしている。
他の人から見ると何とも奇妙な形に見えるようで、「どうやってんのそれ?」とよく言われるが。何せ無意識なので、私に聞かれても、知らない。どうやってんのも何も、どうもしていないのだ。こうしようと意識してあぐらをかく奴がいないのと同じである。
 
高校ぐらいの頃から、背中から腰にかけて重い感じがずっと取れない。間違いなく、悪い姿勢のせいだろう。
それでも、「姿勢のせいだ」と思えるようになっただけ、私にとっては進歩である。姿勢のことは、私にとってあまりに無意識下のことなので、なかなかその因果を繋げて考えることはできなかった。都市伝説の一種じゃないかぐらいに考えていた。
年を取るにつれ、ひどくなる。ひどくなっていることは、普段はあまりにいつものことで気付きもしないのだが。たまに寝不足をしたり調子が悪いときなどに、実感する。ちょっとひねればバリボリ鳴るし、鳴らしたいのに鳴らない時の不快感は言葉ではなかなか言い尽くせない。
 
そんな私も、無意識のままに姿勢がよくなることもある。
歩いている姿は、背筋がピシッと伸びていてすごくいい、とたまに誉められる。座っているときがぐちゃぐちゃに折り曲がっているから、立って歩くと「あれ、そんなに大きかったの?」と言われることもある。
そうなったきっかけを、実は私はよく覚えている。
とんでもない自意識過剰のマセガキだった私は、帰り道で毎日通る店の大窓に映った自分にニッコリ微笑みかけてみたりすることがあった。鼻水垂らした泥だらけの野球少年がニッコリ微笑んだからどうだ、という話なのだが。大窓なので、都合の悪いものは映らない。
ある日、いつものようにふと大窓を見た時。背中を丸めてのそのそ歩く自分の、まあみすぼらしかったことといったらなかった。しばし大窓を鏡に、歩き姿の矯正を試みたのである。
なかなか直らなかったが、毎日やっているうちに、なかなかいい歩き方が出来るようになってきた。自然にまたニッコリ微笑みかけられるようになったのである。
 
もう一つ。車の運転中も、背もたれを起こしてシートベルトをしっかり締め、スッと背筋を伸ばす。
理由は簡単だ。2時間以上の運転は、その姿勢でないと耐えられないのだ。
しっかりした姿勢で乗らなければ、全身の血行が悪くなって足や目などの末端に来る。言うまでもなく、運転で一番重要なのは目と足である。命に関わるのだ。
助手席に乗ることが多かった頃は、いいだけ背もたれを倒し足を投げ出し、乗った後の座席を見て「どこのヤンキーが乗ったんだ?」とからかわれることもしばしばだった私だが。命には代えられぬ。
毎日意識して、最近は一時停止違反で捕まったおまわりさんにすら誉められる優良姿勢ドライバーである。
 
無意識下のことというのは、痛い目にでも遭わないとなかなか直らない。言われたぐらいで直るものではない。自分の意識で、無意識を呼び覚まさなければ、直らないものだろう。
何も、行動の癖だけではない。ものの見方、感じ考える時にだって、癖はある。
なぞなぞが難しいのは、知らないうちに考え方にパターンが出来ているからだ。その虚を突かれれば、答えられない。
そうやって、人は間違えながら生きている。何せ無意識だから、間違っていることにもなかなか気付かない。ひどくなってはじめてわかる腰痛のように、いつの間にやら膿がたまっていくのだ。
悩みだとか苦しみだとか、そういうものの原因の多くは、そんなところにあるのだろう。
 
と、いうようなことを、12時間パソコンの前に座りっぱなしでいい加減ぐだぐだの格好になると、考えてみたりするわけですよ。腰をボリボリ鳴らしながらね。

No comments:

↑ このブログがお楽しみ頂けたら押して下さい。ただの「拍手」です。