夏への愛憎
北海道に住む人は、皆夏に恋焦がれている。
冬が長い。とにかく長い。一年の半分は、冬だ。うち4ヶ月は雪に埋もれる。
灼熱の太陽。湧き出る汗。永い冬の間の夏への憧憬は、尋常ではない。
5月。6月。7月。まだ夏は来ない。6月まで朝方の気温は10℃を切ってくるのだ。ジャンバーが手放せない。
だが。夏に恋焦がれるあまり、北海道の人々はフライングする。
6月。昼間街を歩く人の、なんと半袖姿の多いことか。15℃やそこらの気温で平気で半袖短パンである。そして、ぶつぶつ鳥肌を立ててえへらえへら笑っているのである。
7月。まだ水温は15℃やそこら。だが、海水浴場は海開きを始め、みんな裸同然の格好で浜辺でアイスなんか食っているのだ。
正気の沙汰では、ない。
そうして、そこまで恋焦がれた夏が、実際にやってくると。判で押したように全員揃って暑い暑いの大ブーイングをかます。
北海道の人間の体は、夜20℃以上になれば寝られないように出来ている。25℃を超えたら、もうそれは耐え切れない暑さであり、暑いから早く帰ろうぜ、なんて仕事を切り上げてビアガーデンなんかへ繰り出すのだ。
あれだけ胸を焦がすほど想いをつのらせていながら、来てあげたら、このざまだ。夏も浮かばれたものではない。
そうして、北海道の夏は極めて短い。正味1ヶ月ほどでもう木枯らしが吹き始める。
だが、人々は。やっぱり去る夏を惜しむように9月いっぱいぐらい半袖で通し、鳥肌ぶつぶつでニヤニヤしているのである。
北海道の夏は、他の地域の人に羨ましがられるようなものでは、決してない。
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