2007-09-11

上から読んでも下から読んでも八百屋です。 ~29~

~特別シリーズ・信頼できる野菜・できない野菜 その4~
 
・単品別鮮度・品質チェックポイント きゅうり編
 
トマトもそうですが、本来夏場の野菜であるきゅうりやらナスやらピーマンやらの果菜類は、すっかり通年の商品になりました。
暖かい地方でハウスをうまく使えば年中取れる、そしてそれを全国的に流通させることが可能になったためで、多少高いとはいえ連日真冬日の北海道でもきゅうりの浅漬けをパリポリ食べられるわけです。世の中便利になったような、せちがらいような。複雑な気分がありますね。
 
きゅうりについては、本シリーズでもチラッと触れました
一時期、有機野菜ブームの頃にさかんに「ほら!農薬も化学肥料も使わなかったきゅうりはこんなふうに不恰好に曲がっています!これが自然なきゅうりの姿なんですね!」なんて報道を良く見ました。スーパーに並んでいるまっすぐなきゅうりは不自然、何らかの手を加えている、とでも言いたげでしたが。
これは、完全なる誤解です。何より、食べればわかります。同じ畑で取れた、曲がったきゅうりとまっすぐなきゅうりでは、明らかにまっすぐなほうがおいしいのです。
ヘチマでもスイカでも何でもそうですが、ウリ系の植物の実はみんなまっすぐ、丸く、と規則的な育ち方をしようとします。それが歪んだ、曲がった、というものは何らかの理由で規則的な育ち方を乱されたのです
化学肥料を使わない有機栽培では、栄養不足が曲がりの主な原因になるようです。当然、しっかりとした施肥管理をしている農家さんのきゅうりは、有機栽培でもまっすぐに育ちます。
まっすぐで黒いぐらい青々として、ぱんぱんに張りがあるきゅうり。これこそが、自分の思い通りに育ちたいだけ育った自然なきゅうりの姿です。味がいいのもこういうものです。
 
きゅうりの鮮度の見分け方には、よく知られたものがあります。
「イボ(身の側面についているトゲトゲ)が痛いぐらいとがった奴がいい」
これは、ある意味では正解ですが、ことスーパーに並んでいる商品に限って言えば、必ずしもそうとは言い切れません。
イボは収穫してからしばらく経つとバラバラと落ち始めます。店舗に納品されるきゅうりの箱の底には、必ずこのイボが点々と落ちています。
痛いぐらいイボが残っているきゅうりは、確かに採ってから日の経っていないもの、ではあるのですが。特に裸売りで並んでいる売場のきゅうりの場合、売場でどんどん傷んでいくのです
きゅうりには、実から水分が蒸発していきやすい性質があります。スーパーの売場というのは極端に乾燥していますから(衣料が同じ店舗内にあれば特に)、余計に蒸発しやすくなります。クーラーが効いている夏場はさらにひどいでしょう。
おまけに朝からお客さんが品定めを繰り返すのですから、たとえ朝採れたてのきゅうりだって一日売場に出していればくたくたになってしまうのです。
きゅうりで大事なのは、もちろん味もそうですが何よりパリッとシャッキリとした食感だと思うのですが。それが売場で刻一刻と失われていくわけです。裸売りの場合「採ってから何日か」よりも、「売場にどれだけあったか」のほうが重要な鮮度基準になると思います。
じゃあ全部袋詰めで売ればいいじゃないか、裸で売ったりするからだ、と思うかもしれませんが。それもちょっと違うと思います。
そもそも裸売りをしているのは、袋詰めする手間の削減だけではなくお客さんの目で鮮度・品質を判断してもらうためという意図もあるからです。
きゅうりの傷んでいく過程は、乾燥だけではありません。軟化も腐れも起きます。袋詰めになっていると、ちょっとやそっとの軟化はわかりません。実の色や張りツヤも袋でごまかされるので、いいものを見分けるのが裸より圧倒的に難しいのです。そもそもイボのあるなしだって、袋詰めではわかりませんよね?
お客さんが自分の目でいいものを選んでもらうために。あえて傷みやすいリスクは抱えても、売場の回転を常に管理しながらやっていることなのです。
買う側としては、一日中売場にいたようなくたびれた奴を避ければいいだけの話なのです。そしてそれは、結構簡単に見分けることができます。
きゅうりの端と端を持って、曲げようとしてみて下さい。新鮮なきゅうりは、まず曲がりません。ぐにゃぐにゃと曲がったら、かなり劣化が進んでいます。できるだけ固いものがよりいいものです。
それと。頭というのか尾というのかよくわかりませんが、枝に繋がっていたほう、とがっていないほうの丸まっている端。これを強めに指でつまんでみて下さい。
トマトもナスもピーマンもそうですが、軟化・腐れといった劣化はたいてい枝に近いほうから起きます。きゅうりの場合はまず最初にここが柔らかくなってくるのです。
ぐにぐにとゴムのような弾力があるのはよくありません。できるだけ固いものを選んで下さい。
ここまでクリアしていて、さらにイボがチクチク痛いぐらい残っていたら、それは確実に新鮮でおいしいきゅうりです。パリッとかじったら汁が溢れてくるような、とれたての味を楽しめることでしょう。
 
きゅうりについての雑学をもう一つ。「ブルーム」ってご存知ですか?
白い粉をふいたようなきゅうりをたまに見かけることがあります。あの粉が「ブルーム」です。見てきたようにきゅうりは非常に乾燥しやすいのですが、このブルームには水を弾く性質があり、これで蒸発を抑えているんだそうです。
一時期、この粉みたいなものが農薬ではないかと疑われて、できるだけ出ないようにした「ブルームレスきゅうり」が今は主流になっています。さらに、それは水分がすぐ抜けてしまうということで、皮が厚くて固い品種が流通の中心になりました。
この「ブルームレス」は、きゅうりの品種に関係なく作ることができるそうです。もともときゅうりはヒマラヤが原産で、日本の気候では非常に弱い植物です。病害や冷害に強くし農薬の使用量を減らすため、カボチャの苗に「接ぎ木栽培」をするのですが、そこで使うカボチャの品種によってブルームの出ないものが出来るんだそうです。
ただ、味でいえばやはり皮が薄くてみずみずしいブルームのあるきゅうりのほうがおいしい、と私は思います。何より、曲がりがどうこうよりよっぽど「きゅうり本来の自然な姿」に関ることですから。きゅうりの気持ちを考えると、ブルームのあるほうを応援してあげたくなります。
曲がりやら農薬疑惑やらと、きゅうりというのはとかく思い込みによる風評被害に巻き込まれやすいようで。ちょっと不憫な野菜ですね。
 
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