苦情処理
以前、スーパーの青果責任者をやっていた。
ある程度の規模の青果売場だと、必ずかなり高い頻度で起き、頭を悩まされる問題。
それが、苦情処理である。
野菜や果物は、実によく腐る。
各種在庫を抱えた大型店は尚更だ。全商品に最適な保管などできない。
店の裏で腐るのはいい。店頭で腐るのも、店で発見できればいい。
問題は、お客様が持って帰ったら腐っていた、という時である。
常時点検していても、外見でわからない状態で腐っている場合もある。
減らす努力を続けても、無くなることはない問題が残る商売なのである。
電話がくる。大抵は、夕飯の準備で急ぎのお客様である。
そして、大抵は怒っているというより、残念がり困っている。
ここがポイント。野菜の腐りやすさを知っている主婦の皆さんは、いきなり怒ったりはしない。
怒りより、おかずに欠かせないものが腐っていて、困りました、という電話なのだ。
謝る。完全に店の責任だ。平謝りである。
それから、状況をよく聞く。売り場の商品と照らし合わせ、何が原因か推察し、再発防止案をまとめる。
同時に、きちんと説明をする。何故腐ったのか。どこに店の落ち度があったか。
それから、たとえ一袋10円のもやしであっても、直接お宅まで持参し、腐ったものの状況を確認する。
先程の推察と実物からの情報を総合する。アタマは店の売り場に飛んでいる。
お客様に謝って、再度、結論として何故起きたか、今後どうやって再発を防ぐかを説明する。
商品の代替をし、さらに電話頂いたぶんの電話代を払う。
「困った」が「怒り」に変わらぬよう、細心の注意を払い。きちんとした対応をする。
これは、人に言われたことではない。仕事を続け、何度も何度も謝るうちに、自分で考えたことだ。
何度も繰り返した苦情処理の中には、うまくいく時もあれば、取り返しのつかないことになったこともあった。
だが、うまくいった時には、意外ないいことがある時もあった。
実際に腐ったものを買った人は、苦情を言った人の数よりずっと多いはずだ。
わざわざ電話するような面倒事は、腐ったものを損したってやりたいことではない。
それでも電話するのは何故か。実はそこには、元々あった店への期待が潜んでいる。
期待から失望への落差の大きさが、実際の行動に移らせる原動力となったのである。
そこに。きちんとした対応が出来ると。失望に振れた針は、もう一度期待へ戻る。
しかも大抵の場合、針の勢いの良さからか。元の位置よりさらに期待側へ振れるのである。
苦情を契機に仲が良くなり、店に来る度私と談笑するお客様も何人もいた。
こんなに嬉しく、またやりがいを感じることは、他に無かった。
長々書いたが。何の話してるか、わかるよね?
そろそろ真面目に考えてね。
自分達の仕事を大事に考えているなら。真面目に考えている所を見せて欲しいんだが。
マニュアルだらけの文章じゃ、伝えられないことはたくさんあるんだよ。
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